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記者の眼

高齢者虐待に発展しかねない職員のNG行動とは

 2015年9月、介護付き有料老人ホーム「 Sアミーユ川崎幸町」(神奈川県川崎市)の職員による高齢者虐待と入居者の転落死が明らかになった。これを受け、筆者は職場のモラル崩壊をテーマにした特集記事などを手掛けてきたが、事件が介護業界に与えた影響の大きさをつくづく思い知らされた。

 2カ月間に立て続けに発生した3件の転落死については、今年2月に同ホームの元職員・今井隼人容疑者が逮捕された。報道では、「介護業務のストレスで犯行に及んだ」とされているが、識者の間では、同僚の職員から尊敬を集めたいという「虚栄心」を満たすための自作自演だったという認識が専らだ。

 その証拠に、今井容疑者は入居者の転落現場で第一発見者を装い、救命処置を施している。介護職場では、(1)介護を拒否する認知症高齢者などの困難事例に対応できる人、(2)利用者の体調が急変した際にうまく対応できる人──の2種類の職員が、同僚から尊敬される傾向にある。救急救命士の資格を持つ今井容疑者にとって、入居者転落という“事故”は自分が輝く瞬間だったのだろう。今井容疑者は入居者の金銭を盗み、懲戒解雇されているが、そのお金で同僚に夕食をおごっていたなど不可解な行動も取っていた。

 誤解してほしくないため強調するが、こうした人間は介護職場に限らず、どの職場にもいるはずだ。思い付くだけでも、テレビのコメンテーターや地方議会議員、研究者などに、筆者の感覚では「普通はこんなこと絶対にしないよな」という行動を取っている人がいる。

 ただ「普通」とは言ったが、その定義は実は難しい。これを考え出すと止まらないので、お時間のある方は『サイコパスを探せ!「狂気」をめぐる冒険』(ジョン・ロンソン著、朝日出版社)を読んでみてほしい。少なくとも筆者は普通とは何なのか、さらに分からなくなった。

アミーユシリーズの入居率は毎月1~2%低下
 「Sアミーユ川崎幸町」に話を戻すと、介護業界に与えた影響として大きかったのは、転落死よりもむしろ高齢者虐待の存在が大々的に報じられたことだった。

 全国の虐待件数は年々増えている。今年2月に厚生労働省が発表した「高齢者虐待防止法に基づく対応状況調査」の結果によれば、2014年度の介護従事者による虐待の相談・通報件数は1120件(前年比16.4%増)。そのうち自治体による調査の結果、虐待と判断された件数は300件(同35.7%増)で、ともに過去最多を更新した(図1)。厚労省は虐待防止のため、抜き打ちでの実地指導ができるよう指導指針を改定、今年4月に運用が始まっている。

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