日経メディカルのロゴ画像

 日経メディカル4月号で、特集「その症状、薬が原因では?」を担当した。昨今、話題のポリファーマシー(多剤併用)に関連付け、見逃されやすい薬剤性の有害事象とその回避法を紹介した内容となっている。

 5~6種類以上の薬剤を併用した場合、薬剤性の有害事象が生じるリスクが有意に高まることがこれまでの研究で示されており、そのような多剤併用はポリファーマシーとして問題視されている。また、薬剤性の有害事象は加齢に伴い生じやすくなるため、特に75歳を超えた高齢患者では処方薬の見直しが求められている。

 日経メディカル Onlineでは現在、この4月から臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄(群星沖縄臨床研修センター、沖縄県浦添市)の副センター長に就任した徳田安春氏に「Dr.徳田の『ケースで学ぶ 薬のカシコイ使い方』」を連載していただいている。同コラム6回目で徳田氏は、ポリファーマシーの原因には様々なものがあるが、主要なものは3つと指摘する。

 3つの要因のうち最大のものと徳田氏が指摘するのは、「ガイドラインなどによる薬剤の推奨」だ。高齢患者は様々な併存疾患を有することが多く、1疾患に1種類の薬剤を処方しただけでも、複数疾患を抱える患者ではあっという間に5~6種類を超えてしまうことは、読者の先生方もよく経験されることだろう。また、1剤でコントロールが悪い場合に、ガイドラインに従い別の薬剤を追加したら、さらに処方薬の種類は増えていく。

 ちなみに徳田氏は、2つ目の要因は「患者の希望」、3つ目は「処方カスケード」という。処方カスケードとは、ある薬剤による副作用に気付かずに病気の進行や新たな病態と捉え、処方薬を追加することを指す。

 複数の疾患を抱え、多種類の薬剤を処方されがちな高齢者をどう診るか。今一番、問われていることではないかと思う。臨床研究の対象となり得ない後期高齢患者では、薬物治療のエビデンスはほとんど存在せず、ガイドラインというマニュアルには頼れない。若年世代のエビデンスをそのまま活用した診療を行えば、すぐにポリファーマシーに陥ってしまう。

 実際、徳田氏のコラムによると、先進国では高齢者の約3割がポリファーマシーの状態にあると報告されている。複数の疾患を抱える高齢患者の診療の難しさを示した数字ともいえそうだ。

 そもそも、複数の疾患を抱えている状態は、英語で「multimorbidity」と呼ばれる。既に欧米では、multimorbidityの患者の診療で何を重視し、どう対応すべきかのエビデンスを確立すべく研究が始められている。これまでに、患者の全体像をよく把握し、病気のコントロールよりもQOLを重視する視点を大事にする、また、精神疾患の罹患率が高いことから、見逃さないようにするなどが提唱されている(『ABC of multimorbidity』[BMJ Books、2014])。

 東京大学加齢医学教授の秋下雅弘氏は、「個々の患者で患者本人や家族の希望も聞きながら、治療の優先順位を付ける必要があり、優先順位をどう付けるかはマニュアル化できるものではない」と言う。さらに「マニュアル化できるなら、医師は要らなくなるだろう」とも語っていた。

 EBMが確立した分野では、「診断が確定した後はガイドライン通りの治療」が定番だが、それでは、治療はあまり面白みがないのでは? そう個人的に思っていた。しかし、複数疾患を抱える高齢患者に対しては、個々の患者に最適な治療をよくよく考えた上で提供しなければならない。ということは、これこそ医師の本領を発揮できる領域ではないかと思う。

この記事を読んでいる人におすすめ