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 国内の大手製薬企業が、相次いで重点領域の見直しを進めている。エーザイは、消化器疾患事業を味の素製薬に統合させ、「癌」と「中枢」の研究開発に特化する方針だ。武田薬品工業も、「中枢」「消化器」「癌」に重きを置いて研究開発を進める方針を掲げている。アステラス製薬は、重点領域に最近新たに「筋疾患」と「眼科」を加えた。

 国内の製薬企業を取り巻く状況は一変した。政府が2015年6月に閣議決定した骨太方針で、2020年度末までに後発医薬品を数量ベースで80%とする目標を決定。これまで特許が切れたブランド薬である長期収載品で売り上げを確保していた製薬企業は、もはや長期収載品に頼れない状況になってきた。

 一方で、新薬の研究開発も厳しさを増している。社会の要請や科学の進歩で安全性や有効性のハードルも高まっている。開発に失敗した医薬品の開発コストも上乗せすると、1つの医薬品の開発が成功するまでに掛かるコストは3000億円超。これまでは、新薬と同一の作用機序で化学構造の若干異なる「ゾロ新」を二番煎じ、三番煎じで開発し、営業力を駆使して売り上げを上げることもできたが、最近は一番手が市場を席巻する傾向も強まっている。

 こうした状況に、厚生労働省は2015年9月、「医薬品産業強化総合戦略~グローバル展開を見据えた創薬~」をまとめ、「現状のままでは、日本の創薬産業は生き残りが困難な状況となる」と危機感をあらわにした。総合戦略には、新薬が創出できない製薬企業について「事業の転換等も迫られるのではないか」との刺激的な文言も盛り込まれた。総合戦略の会見で、医政局経済課の担当者は、「他の業界でも異業種に参入する企業は少なくない」と真顔で話し、記者が苦笑する一幕もあった。

 冒頭の重点領域の見直しは、過去の栄光にとらわれず、“勝機(商機)”のあるところだけに懸けようという製薬企業の姿勢の表れでもある。「アクトス」(一般名ピオグリタゾン)を軸に糖尿病領域で強いプレゼンスを発揮してきた武田薬品は最近、糖尿病の低分子薬の研究を中止することを決めた。前身の藤沢薬品工業が筑波山の土壌から生産菌を見付け、免疫抑制剤「プログラフ」(タクロリムス)を開発につなげたアステラス製薬も昨春、「移植を含む免疫疾患および感染症」としていたこれまでの重点領域の1つを「免疫科学」と改称し、移植の色は薄くなった。

 一方で製薬企業が重視しているのが、病態の理解を深め、あらゆるアプローチを駆使して革新的な新薬を創出しようということだ。これまで製薬企業は、独自のスクリーニング系を確立し、自社のライブラリー化合物を作用させ、低分子薬を開発してきた。しかし、抗体医薬や細胞医薬、遺伝子治療、医療機器との組み合わせなど、低分子薬以外のアプローチの実用化が進み、もはや低分子薬だけでは太刀打ちできないのが実情だ。

 武田薬品は京都大学iPS細胞研究所(CiRA)など、外部の研究機関や企業と続々提携し、細胞医薬や遺伝子治療などの新規技術に手を伸ばしている。アステラス製薬も、自社で再生医療に取り組むと宣言するとともに、ES細胞を用いた眼科疾患の細胞医薬を開発する米Ocata Therapeutics社を買収するなど、技術の取り込みを活発化させている。

 もちろん、領域を見直し、新規技術を取り込んだからといって、そこから新薬が出る保障はない。かといって、今まで通りでは新薬の創出からは益々遠のく。国内の製薬企業は、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルに本気を出し始めた。
 

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