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 ここ数年、高齢者薬物治療に関する問題を是正しようとする取り組みが活発になっている。

 昨年には日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」が発表され話題となった(関連記事)。さらに今年1月には、高齢者に対する適切な薬物治療の実践を医師と薬剤師、研究者らが共同で研究する場として、日本老年薬学会(代表理事:東京大学大学院加齢医学教授の秋下雅弘氏)が発足した。2017年初頭の第1回学術集会開催に向けて、着々と整備が進められている。

 高齢者の薬物治療で解決すべき課題は幾つもある。その中で今、最も注目されているのがポリファーマシー多剤処方)の問題だ。ポリファーマシーへの問題意識は以前から存在したが、社会の高齢化による医療費の増大、残薬の問題などから最近さらに取り上げられるようになっている。

 ポリファーマシー解消の方法は、基本的には重複処方や患者にとって効果がない薬を処方から削る、という至って単純なもの。それがなかなか実践されないのは、実現を阻む様々な壁が存在するからだ。

 1つは診療科の間の壁だ。現在、日本の外来診療体制は基本的に専門診療科ごとの縦割りになっている。そのため患者は、喉が痛ければ耳鼻咽喉科、膝が痛ければ整形外科、などと異なる病院・診療所の診療科を受診する。その結果、両方の科から解熱鎮痛薬が処方され、重複投与になってしまう。

 もう1つの壁は、高齢者の薬物治療に関する情報不足だ。医薬品は、臨床試験で主作用と副作用の情報を集めて治療に応用される。しかし試験では多くの場合、小児と高齢者は除外される。体内動態などの違いからデータの均一性を保つことが難しくなるからだ。また予後などを検証しようとしても、合併症や運動不足、老化など影響する因子が多く、試験デザインが難しく有意差も出にくい。その結果、高齢者に投与したときの副作用などの情報は少なくなり、有害事象が発見されても、薬剤が原因なのか、その他の原因によるものなのか判断が難しく、減薬は困難になる。

 さらに最近指摘されているのが、患者本人の希望という壁だ。日本は皆保険制度で自己負担が少ないため、「どうせなら薬をもらいたい」という心理が患者に働くようだ。実際、普通のかぜなら抗菌薬を処方する必要はないことはもはや医療者の常識となっているが、抗菌薬を処方しない医師よりも、抗菌薬だけでなく解熱薬に咳止め、睡眠薬まで処方してくれる医師の方が人気がある、というのはよくある話だ。医療者がポリファーマシー解消に取り組もうとしても、患者本人から「薬を減らさないでください」と言われる場合があるという。

 この他にも目に見えない様々な壁があるポリファーマシー問題。その解消には、診療報酬改定で対応すべきとの声もある。確かに、薬剤料が包括されるDPC病院では減薬に積極的であるという実態からすれば、診療報酬改定でも一定の効果はあるだろう。しかし診療報酬による誘導がなければ何も動かないというのは、医療者としていかがなものか。

 問題の難しさを自覚しつつ、それでも自らの周囲の壁を少しずつ崩す根気強さが、今こそ医療者に求められているのではないだろうか。
 

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