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宮崎市田野地区の高齢者に講演する吉村学氏。「死」をテーマとした話に笑いが絶えなかった。

 「わしは家で死ぬんじゃ」と譲らない、胃癌末期のコウジさん(90歳代、仮名)。入退院を繰り返していたが、臨終が近いと判断して独居の自宅に戻すと、「コウジさんが帰ってきた」「おー、まだ生きとる」とご近所さんたちが集まってくる。手を合わせてお経を上げ始めるお婆さんもいて、「いやいや、まだだから」と思わず突っ込む医師。

 これは、安気に(「安心して」の岐阜の方言)コロリと逝くために、高齢者たちが死ぬ時のことを学ぼうという「あんころの会」を紹介する吉村学氏(宮崎大学地域医療・総合診療医学講座教授)の講演での一幕。「あんころの会」を立ち上げるきっかけとなった、この落語のような光景を再現する吉村氏の軽妙な語り口に、講演を聴く医療者、医学生、福祉・介護の事業者、そして地域の老人たちも皆吹き出してしまう。

「がん、脳卒中、心筋梗塞、死ぬならどれ?」
 岐阜県揖斐川町などの診療所で17年従事してきた吉村氏。その間、1000人近くの医療者を受け入れ、地域医療の現場で教育を行ってきた。地域住民への啓発やコミュニケーションの企画に若い医療者や医学生も参加させ、認知症劇団“ちほう”巡業などのユニークな取り組みも行ってきた。

 住民との交流を積極的に進めて地域に溶け込んできた吉村氏だが、それでも、終末期の具体的な話など「死」について踏み込んでいくことはタブーと感じていたという。しかし、その逡巡から踏み出すきっかけとなったのが、冒頭のコウジさんの臨終だった。

 コウジさん宅に集まってその死を看取ったご近所さんたちは帰り際、「コウジさんはいい死に方をしたなあ。先生、わしもよろしく頼むわ」と口々に伝えていく。それならということで吉村氏は、コウジさんの初七日を兼ねて、死を考えてみるワークショップを企画。「がん、脳卒中、心筋梗塞、死ぬならどれがいい?」という大胆な質問に答えてもらい、選んだ病気によってグループに分かれ、死に方について語り合ってもらった。

「一番コロリと死ねるのは?」
「心筋梗塞ですかねえ」
「じゃあ、それにする」
「でも、がんだと、やり残したことの整理など、いろいろとできますよ」
「じゃあ、そっちがいいかなあ」

 という感じで、それぞれの疾患の経過を若いスタッフが説明し、20~30分、わいわいがやがやと、死を想う時間を共有する。

 人によっては不謹慎とも取りかねない企画だが、医療スタッフとともに死に方について正面切って話すという初めての機会に、老人たちは大喜び。「今までは最後の最後がどうなるかわからんかったから不安だったけど、先生たちが『救急車は呼ばんでいい。看取るから』と約束してくれたから、不安じゃなくなった」。問題は、死ぬまでの経過がブラックボックスであること。老人たちの言葉を聞いた吉村氏は、改めてそう認識したという。

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