日経メディカルのロゴ画像

 「これからは世界に1例しか存在しない難病でも諦めずに治療薬を開発できる」──。慶應義塾大学先端医学研究所遺伝子制御研究部門教授の佐谷秀行氏は力強くこう話す。

 いわゆる難病と呼ばれる疾患(制度的には希少性・原因不明・効果的な治療法が未確立・生活面での長期にわたる支障という4要件で定義されている)の中には、遺伝的な素因を持つものが多い。近年、遺伝子解析装置(シーケンサー)の急速な進歩・普及により、原因遺伝子が次々と判明してきた。遺伝子変異から症状発現にいたるまでのメカニズムも、遺伝子を改変したマウスやブタなどの実験動物、疾患細胞・組織からなる実験系の作成などにより明らかにされつつある。

 そして、こうした研究成果を治療法の開発に結びつける近道として注目されているのが、既存の薬剤の応用、すなわちドラッグリポジショニングだ。

 佐谷氏と共同で研究を進める同大学臨床遺伝学センター教授の小崎健次郎氏は、「新たに薬剤を開発するには莫大な時間と費用が掛かるので、難病の治療法開発に一から企業が参画する可能性は高くない。まずは安全性が担保されている薬剤で検討するということが重要だと考えている」と話す。患者にも「ダメモトでも安全なら試してみたい」という気持ちがあるという。「最も、それが効くということが細胞・動物のレベルでしっかり確認できればの話だが」(小崎氏)。

 具体的な進め方をはしょって説明すると、まず患者の遺伝子の配列を調べ、疾患に影響している遺伝子を推定する。その遺伝子変異によって活性化されている細胞内のシグナルが判明したら、その経路、あるいは周辺の経路を遮断することが分かっている既存の薬剤を用いることは理論上可能になる。

 適切な薬が分かっていなかったら、患者、あるいはモデル動物の細胞から病態を再現した組織を作り、既存の薬を色々と試し、副作用としてシグナルをブロックするものを見つける。「副作用をうっちゃりに使うということ」(小崎氏)。

 安全性や薬剤の性質についての情報が十分にあり、細胞や動物で得た効果を迅速にヒトで検証できるのも、既存薬を利用するメリットだ。

 そして患者への投与だが、「既承認薬かそうでないかで、倫理的な観点からのハードルの高さが全く異なる」(小崎氏)。

治療薬が開発された後の治療の責任は?
 問題はここから先だ。研究のうちはともかくとして、恐らく一生涯必要になる薬剤の投与に、誰が責任を持つのか。

 佐谷氏は「薬剤の承認に必要な現在の治験は、将来の患者のために行うという考え方でできている。しかし難病・希少疾患の場合は、今、目の前の患者の役に立たなければ意味がない。1例でも治療していくというアプローチを考えなければならない」と指摘する。

 昨年秋には、難病である軟骨無形成症患者の細胞から作成した疾患特異的iPS細胞を用いて、スタチンが有効な可能性を示した成果が京都大学iPS細胞研究所から発表された。これからも難病に有効な既存薬が、次々と明らかにされていくに違いない。それを患者の治療へと実際に結びつけるために、社会的な制度の検討も開始しなければならない時期に来ているのは間違いない。
 

この記事を読んでいる人におすすめ