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 少し前の話になるが、『教授はつらいよ』という記事を担当した(詳細は「『白い巨塔』とは大違い、失墜する教授の権威」「医学生の試験成績が悪いのは教授のせい!?」「激務に見合わぬ薄給も副収入で何とか補填」「意外に多い『周囲に勧められて』の教授選立候補」をどうぞ)。

 医学部教授といえば、「絶対的な権力を握っている」「派閥争いの勝者」というイメージが先立つが、実際には多くの教授が医局員に気を配りながら様々な管理業務を抱え、収入は激務に見合うものとは言い難い――。取材からは、そんな今どきの教授の姿が垣間見えた。

 当時、記事をまとめるに当たって行った医学部教授に関する調査には『日経メディカル Online』の会員医師1002人から様々な意見が寄せられた。記事中ではあまり触れられなかった、これらの貴重な意見をここで紹介したいと思う。

ピラミッドの頂点だった教授が今や…
 まず、教授の位置付けの変化に関して。記事では、新医師臨床研修制度の導入や専門医制度の整備などにより、医師は出身大学の枠にとらわれずに様々な病院で研修を受けたり、専門医資格を取得することが可能になり、医局への帰属意識が希薄になったことを述べた。こうした環境の変化が教授の人事権低下につながっているようだ。

 調査でも、「私が入局した25年前、教授はピラミッドの頂点だった。人事の任命権が一番の権威の象徴。医局から離れて開業するにもお伺いを立ててからという時代だった。許可なく医局を去ることができない、まあヤクザのような世界だった。その世界も新医師臨床研修制度とともに崩壊したと思う。入局者の減少によって病院に派遣する医師の維持が困難となった」(50歳代男性)、「教授の機嫌次第で出張先があっという間に決まることがなくなった」(60歳代男性、一般内科)などの声があった。

 教授のステータスに対するコメントも複数あった。「医学博士の価値が落ちて若い医師が専門医指向になり、大学病院の不祥事が多くなったことから、以前に比べて教授に対する世間の評価は明らかに下がった」(60歳代男性、一般内科)、「これほど職業的地位に変化が生じるとは想像できなかった。今の教授は高校教諭くらいのステータスかな」(50歳代、一般内科)などだ。

 50年前に初版が発行された小説『白い巨塔』では、主人公の財前五郎(国立浪速大学第一外科助教授)の義父は開業医で医師会幹部だが格下に描かれ、ヒエラルキートップの「教授」に異常に執着し、財前の教授就任を強力にバックアップした。今は大学病院に引けをとらないレベルで先進医療に取り組む民間病院もあり、大学絶対のヒエラルキーは必ずしも当てはまらなくなっている。

 ただし、教授の権威低下は否定的な意味を持つばかりではなく、「以前に比べて民主的になって良かった」(50歳代男性、一般内科)、「今の教授はよい意味でフレンドリーになっている」(30歳代男性、消化器内科)と、肯定的に捉える医師もいた。

研修修了の印鑑を押さないという最終手段!
 反対に、医局内や地域の基幹病院における教授の権力はまだまだ健在だとする意見には、「いまだにやはり白い巨塔の世界に近いものがあると思う」(30歳代男性、その他の内科系専門科)、「教授の権限が絶対的なのは今も変わらない。特に専門医資格を取るときが大変。教授の意に沿わない意見を持つ医局員には、研修修了の印鑑を押さないという最終手段がある。これをやられ専門医資格を取れずじまいで医局を去っていった人間が結構いる」(50歳代男性、皮膚科)などがあった。こうした理不尽な手段を取られても以前なら医局を離れず我慢する医師が多かったと推測するが、今は医師が医局を去るに当たってのハードルが下がった。

 また、「教授」のネガティブイメージとして挙がりがちな教授選にまつわるゴタゴタについては、「優秀な他大学出身の准教授が教授になれず、年齢が下の本学出身者が教授になるなど、教授選を外から見たときに不透明だったり、明確でない部分が多い」(40歳代、神経内科)などの意見があった。

 結局のところ「教授になりたいと思っている(思っていた)」かどうか聞くと、実に87.9%もの医師が「教授になりたくない(なりたくなかった)」と答えた(図1)。大学や学会の雑務が多い、激務である、収入が少ないなどと医師は教授の姿をよく見て判断しており、そうしたコメント欄を見るとさもありなんと感じるが、調査の実施前は「教授にあこがれている医師は多いだろう」と考えていた筆者にとっては衝撃的な結果だった。

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