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 今年4月から各都道府県で「地域医療構想」の策定作業が始まった。地域医療構想は2025年時点で目指すべき医療提供体制のいわば青写真。都道府県は、原則として二次医療圏を単位とする「構想区域」ごとに2025年の医療需要を推計した上で、必要となる病床数などの整備目標を定めて、その実現に向けた施策を描く。

 個人的に、この新たな政策手法に対する期待は非常に大きい。だが、実現には困難がつきまとうことを、先日、ある事例を通じてまざまざと思い知らされた。

 それは某県の、県庁所在地ではないある中堅都市で起きたものだ。

 同一医療圏内で近い距離に位置する市立病院Aと公的病院B。どちらも急性期医療を担う基幹病院で、診療機能がバッティングする。市立病院Aには前々から新築移転の計画があり、来年後半には新病院がオープンする。

 3年前に市立病院Aの移転計画を立てた際には、県の方針で公的病院Bの機能強化を進めて医療圏内の高度急性期機能を集約し、市立病院Aは基本的にその後方病院となる方向で話がついていた。だが、後に雲行きが怪しくなる。

 市立病院Aの院長は外科出身。そのせいか、自分の病院で手術をやはりバリバリこなしたいと願うようになった。そこで、当初1室しか予定されていなかった手術室を何とか増やそうと画策し、優秀な外科医のリクルートも開始。何と公的病院Bの外科医にも声を掛けたという。結果的に、手術室は3室設けられることになった。

 手術室の増設はなぜ認められたのか? その大きな要因は“援軍”の登場によるものだった。地元の有力な市議会議員らが「市立病院Aの機能縮小・機能再編は認められない!」と声高に主張し、行政に計画の見直しを迫ったのだ。この主張に対し、県全体の医療政策を統括する県知事は「ノー」を突きつけることなく、結局、県が温めていた2つの病院の機能再編計画はとん挫してしまった。

県知事が有力議員による横やりや圧力に屈してしまう
 顛末を知り、衝撃を受けた筆者はつい先ごろあるセミナーでこの事例について話した。すると、参加していた若手の県医療政策担当の職員の方が、「紹介されていた事例のようなことは“県庁あるある話”なんです」と教えてくれた。「それで僕らも困っているんです」とのこと。自分たちのトップである県知事が有力議員による横やりや圧力に屈してしまうことには怒りを覚えて当然だろう。

 先の事例で県知事が市議会議員らの主張に対し及び腰になったのは、筆者のうがった見方かもしれないが、選挙での票を失いたくないからという理由が大きいのではないか。県知事選で勝つには、市区町村・行政区の議員の力は大いに頼りになるところ。味方にしておくに越したことはない。

 地域医療構想の実現に当たっては、法律上の規定で、都道府県知事に大きな権限が与えられた。構想の実現は医療機関の自主的な取り組みを重視し、医療機関同士の協議により進めることが基本。ただし、協議が不調に終わった場合、都道府県知事は医療審議会の意見を聞いた上で、過剰な病床機能への転換計画の中止や、いわゆる休眠病床の削減を民間病院に要請、公的医療機関であれば指示・命令できる。

 民間病院にはあくまで「要請」であるのに対し、公的医療機関には「指示・命令」できる。それ故、地域医療構想の実現段階では、公的医療機関は相当大胆な改革を断行される可能性が高い。てっきりそう思い込んでいたものの、実際には違う展開になるかもしれない。となれば、より調整の難航が予想される民間病院の機能分化・機能再編は夢物語に終わってしまう恐れすらあるだろう。
 

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