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 1年前の当コラムで、アルコールの生体に及ぼす悪影響や社会に与える損失が如何ほどかを多くの国民が認識していないとして「アルコール・ディジーズ放置の大罪」と題する文章を書いた。しかしその後も、「放置」の現状は変わっていないようだ。

 昨夏には北海道小樽市の市道で、朝から長時間酒を飲んでいた30代の男が運転する車に海水浴帰りの女性4人がひかれて、うち3人が死亡するという痛ましい事件が起きた。今年2月に川崎市川崎区の多摩川河川敷で中学1年生の遺体が見つかった事件では、殺人容疑で逮捕された10代の少年3人はアルコールを日常的に摂取しており、犯行直前にも飲酒していたと報道されている。

 両事件ともアルコール摂取が犯行の引き金、あるいは助長要因となったのは確かだろう。そして彼らの常用飲酒を放置・容認していた周囲の人々、さらには飲酒習慣に寛大な日本社会にも遠因があると言ったら言い過ぎだろうか。

 以前も記したように、飲酒は脳をはじめ様々な臓器にダメージを与え、毎日必ずどこかで起きている傷害事件や性犯罪、交通事故、自殺、DV(ドメスティック・バイオレンス)、子どもの非行の多くに絡んでいる。これ以上アルコールによる不幸な犠牲者が出てほしくない一心で、自身がさらに周囲から疎んじられるのを顧みず、今回もアルコールの害の話をさせていただく。
 
 人々が飲酒習慣に寛大な理由の1つに、「適量の飲酒なら体にいい」という認識が浸透していることがある。アルコールにはリラックス効果のほか、血小板凝集抑制作用など血管保護効果があるといわれる。実際、飲酒量と総死亡の関係を調べた複数の観察研究では、飲酒をしない人より適量の飲酒をする人の方が死亡リスクが低いことが示されている。

適量飲酒の利益は研究上の選択バイアスに起因?
 だが研究調査の際に「飲酒をしない」と答えた人の中には、「過去に全く酒を飲んだことがない人」と「過去に飲んでいたが今は飲んでいない人」がいることが指摘されている。さらに後者には、健康を害して断酒した人が含まれているとみられる。

 一方、適量飲酒群では非飲酒群に比べ経済的に恵まれた層に属している人が多く、スポーツを好み栄養バランスのいい食事を取っているなど健康的な生活を送っている人の割合が高いといわれている。これまでの研究では、このような潜在する交絡因子を排除できていない。

 そうした交絡因子を調整した上で飲酒量と総死亡の関係を調べた論文が、権威ある医学雑誌British Medical Journal(BMJ)に最近掲載された(関連記事:適度な飲酒は健康に良い」は統計のマジック)。

 著者らは英国イングランドの住民コホートから飲酒歴や週の平均飲酒量、死亡登録との関連付けが可能だった50歳以上の約1万8000人を対象に解析。まず交絡因子を調整せず調査時点で飲酒していない人を対照群として比較したところ、年齢・性別・飲酒量にかかわらず死亡リスクは飲酒習慣を持つ人の方が対照群に比べて有意に低率だった。

 しかし、BMI(体重指数)や雇用状態、学歴、人種、婚姻状態、喫煙歴、社会経済学的要因などで調整するとP値は大きくなり、飲酒の利益は減少した。さらに、対照群から過去の飲酒者を排除し、「過去に全く飲酒したことがない」と申告した人だけを対照群として共変数で調整すると、一部の集団(飲酒頻度が月1~2回の女性など)を除いて飲酒の利益は消失した。

 逆に、現在は飲酒していないが過去に飲酒していた人の死亡リスクは過去に全く飲酒したことがない人に比べ有意に高く、飲酒の利益は、何らかの理由で二次的に禁酒した過去の飲酒者が対照群に含まれることによる見かけ上のものである可能性が示唆された。著者らは「これまで示されていた軽度飲酒と総死亡の間の好ましい関連性は一部に対照群の選択が適切でないことと、交絡因子の調整が十分でないことに起因していた可能性がある」と指摘している。
 

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