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医師・研修医のメンタルヘルスセミナーの様子

 「クラッシャー上司」という言葉をご存じだろうか。気分の浮き沈みが激しく、暴言を吐いたり、横柄な態度を取ったり、時には徹底的に無視したりといった攻撃や言動で、部下を次々と潰してしまう上司のことだ。

 初期研修や医学部高学年における病院実習(ポリクリ)で、最初にこうした上司(指導医)の下に付いてしまうと、まだ同期との関係も浅く、助けを求められる知り合いも少ないため、相談ができずに悲惨な状況に陥るのだという。

 ある研修医が勤務中に分からないことがあり、指導医に質問をしたときのやり取りを例に挙げてみよう(事例提供:筑波大学産業精神医学・宇宙医学グループの鈴木瞬氏)。

研修医 ××先生、この患者さんの所見について、○○の部分が分からないので、教えていただけないでしょうか。
指導医 君はどう考えるの?
研修医 え?(それが分からないから質問してるのに……)
指導医 ははっ。君、前頭葉使ってる? MRI撮ってあげようか?
研修医 うっ……。
指導医 ねぇ、君ホントに国試受かったの? 質問の意味分かるかなぁ?
研修医 えっと……。
指導医 何? 聞こえないよ? 発言するならちゃんと医学的根拠のある発言をしてね。
研修医 ……。
指導医 君たちはいいねぇ。黙ってるだけで給料もらえるんでしょ? 羨ましいよ。

 指導医から、こんなのネチネチとしたお説教が30分以上続いたら、あなたはどう対処するだろうか。

 こうした医療現場における「クラッシャー上司」への対処法を若手医師に伝授する目的で開催されたのが、「医師・研修医のメンタルヘルスセミナー」だ(関西若手医師フェデレーションの柴田綾子氏が企画)。上のやり取りは、そのセミナーで題材とされた一例だ。

 解説していたのは、高知医療再生機構企画戦略担当特任医師の鈴木裕介氏。同氏は4年前から高知県を中心に、産業精神医学を専門とする鈴木瞬氏と一緒に研修医のメンタルヘルス対策や啓発活動に注力している若手医師の1人だ。今回は、この鈴木裕介氏によるセミナーの内容を一部、紹介したい。

レッテル貼りと愚痴が最大の対処法
 一般的な指導医からの注意や指導には素直に従い、自己を高める努力をするのが当然だろう。だが、クラッシャー上司からの指導は別だ。潰されないようにする独自の対処法が必要となる。

 部下を潰してしまうタイプの上司は、大まかに次の3タイプに分類される。(1)部下・後輩を自分の思うままにコントロールしようとする「干渉型」、(2)気分の浮き沈みが激しい「感情型」、(3)ついつい手が出る「乱暴型」だ(増井武士『職場の心の処方箋』誠信書房,2001より)。

 「人は相手を理解できないとストレスを感じるもの。まずは『あのオーベンは感情型クラッシャーだろう』と自分自身の中であえてレッテルを貼り、理解できない要素を減らすのが1つの対処法だ」と鈴木氏は説明する。その上で、自分と相手のどちらの言い分が正しいかを考え葛藤するのではなく、「『こんなやつに自分のエネルギーを使うのは損』と損得で動き、その鬱憤をどこかで素直に吐き出すことが大切」なのだという。

 「レッテルを貼る」、正しさではなく「損得で動く」、「愚痴を言う」と聞くと、ネガティブなストレス対処法だと思われるかもしれない。だが、そもそもクラッシャー上司の指導には、情緒的な発散や上司自身のコントロール感を満たすという側面がある。そのため、一般的な問題解決手段を選ぼうとすると、部下はたちまち潰れていってしまう。

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