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 今秋、筆者がひそかにエポックメーキングだと思っている、日本発の新薬が2つ登場した。

 1つは「シダトレン」。今年1月、日本で初めてのアレルゲン特異的免疫療法薬として鳥居薬品が製造販売承認を取得、10月8日に発売された舌下投与用標準化スギ花粉エキス原液製剤だ。

 花粉症の治療といえば、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などの対症療法薬が中心。これに対し、シダトレンはアレルゲン(スギ花粉エキス)を少量から徐々に増やしながら長期間投与し、アレルゲンに対する免疫反応を減弱させて疾患の発症そのものを抑えることを目的とした根治療薬だ。

 アレルゲン特異的免疫療法は、皮下注射による治療が1911年に初めて報告されて以来、アレルギー疾患の唯一の根治療法として期待されてきた。だが、作用機序に不明な点が多いことや、まれに重篤なアナフィラキシーが起きるリスクがあることから、ほとんど普及していなかった。

 しかし近年、皮下注射に比べアナフィラキシーのリスクが低く、投与しやすい舌下免疫療法が欧州で広がり、有効性のエビデンスが集積されてきた。国内でも2005年ごろからアレルギー対策の一環として厚生労働省がスギ花粉症への舌下免疫療法を後押しし、複数の研究で有効性が示されたことで再び脚光を浴び始めた。以前から皮下注射用のスギ花粉エキスを販売していた鳥居薬品が、舌下免疫療法の開発を手掛けることになった。

 2010年から12年にかけて500人以上のスギ花粉症患者を対象に行われた第3相試験では、投与開始から2シーズン目(2012年春)に花粉飛散量がピークとなった3週間の症状スコアが、プラセボ群に比べ実薬群で有意に改善。副作用は口内炎や舌下腫脹など軽いものが14%の被験者に出現した程度で、アナフィラキシーなど重篤な有害事象は起きなかった(海外では舌下免疫療法によるアナフィラキシーが報告されているため、添付文書上、アナフィラキシーの発現には強い注意喚起がなされている)。

免疫療法のターゲットは制御性T細胞
 不明だった作用機序についても、アレルゲン特異的免疫療法によりインターロイキン(IL)10分泌制御性T細胞が増加することが分かってきた。「IL10の作用によりB細胞が花粉アレルゲンに特異的なIgG4抗体を多く産生し、それがアレルゲンと結合することによって、アレルゲンがマスト細胞や樹状細胞上に存在しているIgE抗体と結合するのを妨ぎアレルギー反応を抑制する」(国立成育医療研究センター副研究所長の斎藤博久氏)と考えられている。

 制御性T細胞はヘルパーT細胞の働きを抑えて免疫応答を抑制する機能を持ち、食物などの抗原分子が腸管で樹状細胞に取り込まれると優先的に誘導される。乳幼児期において抗原と接触する粘膜に細菌感染などが繰り返されると、感染により変性した細胞核(自己抗原)が放出され、制御性T細胞の発達や増殖が促される。逆に、細菌感染などの機会が少ないと制御性T細胞が十分に発達せず、アレルギー疾患発症の要因になるという。

 実際、アトピー性皮膚炎患者と気管支喘息患者の制御性T細胞数を測定したところ、血清IgE値や好酸球数が同レベルのアレルギー体質保有健常者に比べ非常に低い値を示したと国立成育医療研究センターの研究グループが報告している(J Allergy Clin Immunol. 2007;120:960-2.)。食物アレルギーの寛解にも制御性T細胞が密接に関与していることが分かり、数年前から「必要最低限の食物除去」が常識だった食物アレルギーに対して経口免疫療法が世界的に試みられている。

 シダトレンの臨床効果は、アレルギー疾患発症に制御性T細胞が重要な役割を果たしていることを改めて裏付けた。現在、気管支喘息と通年性アレルギー性鼻炎を対象としたダニ抗原の錠剤の開発も進んでいる。今後、舌下免疫療法薬は花粉症だけでなく、様々なアレルギー疾患の自然史を変える可能性を秘めている。
 

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