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記者の眼

実臨床での抗凝固療法に潜む、もう1つの死角

 日経メディカル10月号特集「新規抗凝固薬の強みと死角」、既にお読みいただけただろうか。本稿では、記事で紹介できなかった「死角」に触れてみたい。

 その1つが、経口抗凝固療法に対するアドヒアランスについてだ。ある大学病院で新たに新規抗凝固薬(NOAC)が導入された連続症例(約500人)を対象にNOACの継続率を調べたところ、1年後の中断率が2~3割に達していたという。対照群として設定した同時期のワルファリン導入者(250人)の方が、かえって継続率は良好だった。

 中止理由で最も多かったものは消化器症状や小出血などの有害事象で全体の半数を占めたが、1~2割が「患者の希望」であり自己判断で止めていた患者も数%いた。自己判断による中止の理由も、消化器症状や小出血などの有害事象関連が多かったが、「飲みたくないから」といったものもあった。また、自己判断による中止のほとんどは、治療開始後1~2週間と極めて早期に発生していた。

 もちろん、NOACを中止した患者の多くは他のNOACやワルファリンによる抗凝固療法が継続されていたのだが、一方で2割程度は抗凝固療法を全くやめてしまっていた。そして残念なことに、自己判断でNOACを中止した患者16人のうち2人が脳梗塞を発症した。

 ワルファリンに比べてNOACが、心房細動(AF)に伴う脳卒中/全身性塞栓症のリスクを有意に下げたとはいえ、絶対値では年間1%以下の議論だ。だが1年後には治療を始めた患者の2~3割が薬を中止し、一定数はその後も抗凝固療法をやめてしまうのでは、有効性に関する小数点以下のレベルでの議論など、どこかに吹き飛んでしまう。

 抗凝固療法とは、出血という目に見える有害事象が一定の頻度で発生する中で、脳卒中/全身性塞栓症の予防という目に見えない利益を期待する治療法といわれる。治療の継続には、患者の自発性や積極性が要求されるだけに、医療者と患者がよく話し合って治療方針を決定し、合意に基づいて治療に取り組むという、治療へのアドヒアランスが特に重要となる。

 処方された薬を患者が実際にどの程度飲んでいるかという問題は、これまでコンプライアンスの概念で語られてきた。だがコンプライアンスとは、医療側の要求や命令に従うことであり、患者の都合や自己判断による中止は患者側の問題となる。

 ところが、飲み忘れや自己中断が脳卒中/全身性塞栓症に直結するAFの抗凝固療法では、このような一方的なコンプライアンスの概念では乗り越えられない壁が存在すると、検討した医師も指摘していた。これもNOACで考えておくべき「死角」といえるだろう。

 王道はないにしても、治療へのアドヒアランスの視点から、提案した薬物治療を患者が実行できるか、できないとすればその要因は何か、それを解決するためにはどうすればよいかなど、患者とよく話して問題がないか確認することが、治療の継続につながっていくのだろう。 

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