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記者の眼

「医療輸出」で欧米勢に負ける日の丸医療機器

 今年3月、インド南部の都市バンガロールに、我が国の「医療輸出」のモデルというべき病院「サクラ・ワールド・ホスピタル」がオープンした。セキュリティー事業最大手セコムのグループ会社であるセコム医療システムと、トヨタ自動車系の商社である豊田通商が、現地の中堅財閥キルロスカ・グループと組んで病院運営会社を設立。インド初の、日本企業と現地企業の共同運営による病院として開設した。

 サクラ・ワールド・ホスピタルは、脳・神経、心臓、消化器といった分野の高度急性期医療に対応するための医療機器と入院・手術設備を備え、17の診療科と約300のベッドを擁する。最大の特徴は、これまでセコム医療システムが培ってきた提携病院での運営ノウハウを活用し、高度かつ効率的な日本流の病院運営を実現することだ。開設に当たっては、同社の提携病院の看護師やリハビリスタッフなどがインドに渡り、研修や業務改善指導を担当した。

 それだけに、病院の売りである高度医療機器も日本製のものをそろえているに違いない──と思うところだが、実はそうではない。3テスラのMRIをはじめとする大型医療機器は、フィリップスなど欧米メーカーの製品が採用されている。当初は日本製品の採用が計画されていたのだが、病院に勤務するインド人医師らの意向によって変更されたのだという。

留学経験者は帰国後も使い慣れた機器を選ぶ
 インドの医師は国内の大学卒業後、欧米に留学したり、そこで臨床経験を積むケースが多い。また、インド人医師の留学を支援している欧米の医療機器メーカーもある。そのため彼らは、インドに帰国した後も、欧米時代に使い慣れた機器を選ぶ傾向が強い。サクラ・ワールド・ホスピタルで日本の医療機器が欧米勢に競り負けたのも、こうした事情からだ。実際、インドのMRIやCTの市場は、GEとシーメンス、フィリップスの3社が大きなシェアを占めており、日本メーカーの影は薄い。

 「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」ではないが、医療機器の輸出を進めるのであれば、対象国の医師に日本製品を信頼してもらうことが欠かせない。そのためには、海外から医師や医学生の留学を継続的に受け入れたり、現地で日本の医療機器に触れることができる施設を開設することなども検討すべきだろう。

 もっとも、外国の医師と日本の医療機器の接点を増やすだけでは十分でない。例えば、タイへの医療機器の輸出を巡って、こんな話があった。

 日本とタイの医療交流プログラムで来日したタイ人医師が、日本の病院で長期研修を受け、ある医療機器のファンになった。そこで帰国後、勤務する病院に、その機器を日本から輸入してくれるよう要望した。ところが、その機器には日本語のマニュアルしかなく、他の医師が使うことができないからという理由で要望は却下されてしまった──。

 MRIやCTといった大型機器を除くと、日本で医療機器の製造を手掛けている企業には、実は規模が大きくないところが多い。その中には、海外でも通用する実力を持った機器を製造しながらも輸出にまでは手が回らない──つまり機会損失を招いているケースもある。そうしたメーカーに対しては、外国語のマニュアル作成など、輸出に向けて必要な業務を援助することも考えていくべきだろう。

 我が国では現在、経済産業省の支援で設立された一般社団法人「Medical Excellence JAPAN」が、日本式の医療サービスを医療機器、教育、医療制度や保険システムとパッケージで輸出する活動に取り組んでいる。中でも重要な位置を占めるのは、やはり医療機器だ。日本の医療機器が欧米勢に競り負けないようにするためにも、長期的な視野に立って対象国の医師との交流を進める一方、規模が小さいメーカーの輸出をサポートする仕組みを早急に整備することが求められている。

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