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記者の眼

ピンクレディー解散から始まった日本の在宅医療

 突然ですが、在宅医療の診療報酬に関するクイズです。以下に記した報酬算定に関する文章のうち、正しいのはどれでしょうか(正答は2つ)。

(1)患家で2人以上の患者を診察する場合、2人目以降は在宅患者訪問診療料を算定できず、初診料または再診料を算定する

(2)特別養護老人ホームへの訪問診療は原則できないが、末期癌の患者と入所者の死亡日に限り在宅患者訪問診療料を算定できる

(3)医師が通所介護事業所で利用者に在宅医療を提供しても、在宅患者訪問診療料も往診料も算定できない

(4)特定施設では特定施設入居時等医学総合管理料も在宅がん医療総合診療料も算定できる

(5)小規模多機能型居宅介護の利用者については、在宅患者訪問診療料は一切算定できない

 お分かりになったでしょうか。在宅医療を提供する場所や患者の状態によって、算定できる報酬が細かく規定されていることを基に作成した問題です(正解は次ページ末尾に)。在宅医療の報酬体系はかなり複雑で、実際に従事している在宅医や事務職の中でも完全に理解している人は多くないと聞きます。

ほんとに算定漏れ・ミスなく報酬請求できてる?
 この他にも、医療者が在宅医療を手掛ける中で報酬算定の判断に迷う事項は数知れません。往診日とその翌日に行った訪問診療について在宅患者訪問診療料を算定できるのか、特定施設や認知症高齢者グループホームなどでは在宅時医学総合管理料(在医総管)と特定施設入居時等医学総合管理料(特医総管)のどちらを算定するのか、どんな医療材料の費用であれば患者から徴収できるのか、どの処置料や注射料は在宅療養指導管理料に含まれるのか、医療保険で2カ所以上の訪問看護ステーションからサービスを提供できるのはどんな患者か──といった具合です。

 訪問看護に至っては、医療保険でサービスを提供するのが医療機関か訪問看護ステーションかによって、算定する点数が診療報酬と訪問看護療養費に分かれるだけでなく、サービス提供機関種別に関係なく介護保険が医療保険に優先して適用されるルールもあります。

 これだけややこしいと、算定漏れやミスをせずにしっかり報酬請求できている医療機関が果たして存在するのか疑問を抱いてしまいます。在宅医療を提供する医療機関がこの複雑な報酬の仕組みを理解していなければ、最悪の場合、在宅患者に必要な医療が提供されない事態にも陥りかねません。その意味では現在の報酬体系は、「患者本位」とは到底いえないのではないでしょうか。

訪問診療の創設で在宅医療の普及に拍車
 在宅医療の歴史は、1980年代に始まりました。ピンクレディーが後楽園球場で解散コンサートを行った1981年には、「往診料」が診療報酬に位置づけられました。その後、国は1984年に「緊急往診加算」を新設して、徐々に在宅医療の普及に乗り出します。

 本格的に在宅医療が推進され始めたのは、1986年からといわれています。ビートたけしとその仲間が写真週刊誌「フライデー」編集部を襲撃した年です。当時の老人保健法の老人診療報酬に「寝たきり老人訪問診療料」が新設され、定期的・計画的に患家を訪れて診療する「訪問診療」という概念が初めて導入されました。

 患者の求めに応じて不定期に患家を訪問する往診しかなかった時代は、患者の状態が悪化したときしか在宅医が対応できなかったため、在宅生活の継続を諦めて入院してしまう患者が少なくなかったそうです。これに対して、訪問診療を行えば医師は患者の状態を常日ごろ把握できるので、状態悪化の予防やターミナル患者への対応などが可能になったのです。

 その後、勝新太郎がコカインの不法所持で逮捕された1990年には訪問看護が診療報酬に位置づけられ、尾崎豊が死去した1992年には訪問看護ステーションが制度化されたほか、投薬料や検査料などを含んだ丸めの点数「寝たきり老人在宅総合診療料」(月2回以上訪問診療を行った場合に月1回算定)が新設されました。これらと並行して1980~90年代には、在宅人工呼吸や経管栄養、血液自己透析といった「在宅療養指導管理料」や「ターミナルケア加算」なども新設され、在宅医療の充実がますます図られていきます。
 

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