日経メディカルのロゴ画像

記者の眼

マンモス学会での紙抄録、存在意義はもはや消滅

 春の学会シーズンも、そろそろ終盤を迎えつつある。2月の日本消化管学会はコンパクトな学会だったが、3月の日本循環器学会、4月の日本リウマチ学会、5月の日本糖尿病学会と、わが国でも有数のマンモス学会の取材が続いた。この取材の折、マンモス学会では、紙の抄録の存在意義がもはや消滅しているのではないかと感じた。

 既に日本循環器学会では数年前から、学会誌抄録号を発行していない。抄録は、毎年の学術集会のウェブサイトにあるMy Abstractに自分のIDを作り、そこで検索して読むことになる。さらに学会場で抄録のCD-ROMが販売される。抄録は英文なので斜め読みには時間が掛かってしまうが、比較的詳しく書かれているので、一般演題でも研究デザインや結論に至るロジックは分かりやすい。

 1つ残念なことは、My Abstractのサービスは学会後1カ月程度で終了してしまうことだ。学会員にとっては発表すれば終わりなのかもしれないが、ウェブサイトだけでなく月刊誌でも学会のニュース記事を編集するわれわれの立場からは、もう少し長い間アクセスできた方がありがたい。せめて半年は、閲覧可能にしていてほしい。

 それはさて置き、紙の抄録の問題点の1つが、演題数に比例して年々増加する「重さ」にあることは間違いないだろう。昨今の学会では、参加者の多くはノートPCも持ち歩いている。周辺機器を含めれば2kg近くになるはずで、そこにさらに抄録が加わるわけだ。ちなみに今年の日本糖尿病学会の抄録は1.6kgもある。国内外を問わず、スマートフォンやタブレットで抄録が読めるアプリが作られるようになったのは、うなずける。

 ただ今年の学会取材で、ふと気づいたことがあった。マンモス学会では、抄録を読んでも研究の具体的なイメージや面白さが判断できないことが増えた印象があるのだ。その理由を考えてみたが、1演題の抄録の文字数が少なくなり、内容を判断するための情報が足りなくなったことが大きいのではないか。

 日本糖尿病学会の場合、一般演題はA4判1ページに8題の抄録が収められており、1題の抄録の文字数は400文字前後しかない。電子化された日本循環器学会の抄録は英文なので直接の比較はできないが、一般演題でも文字数は比較的多い。演題数が少ない日本消化管学会では、一般演題の抄録はA4判1ページに4題で、1題当たりの文字数は700文字前後。単純に文字数イコール情報量の差とは言い切れないにしても、日本糖尿病学会とは約2倍の差がある。

 いくらアプリが進化しても、閲覧性に関しては、紙の抄録の方が優れていることは明らかだ。ところが演題数の増加に合わせて抄録を厚くしようにも、もはや限界に達している。印刷物にするには、1つの演題の文字数を少なくして詰め込むしかない。だがその結果、読んでもよく理解できない抄録が増えてしまったとしたら本末転倒ではないか。

 これを解決するには、日本循環器学会のように紙の抄録の取りやめと、抄録集アプリの充実を図ることだろう。日本でも主要な学会は抄録集アプリを作るようになったので、あとは紙の抄録の作成をやめるという学会理事長の決断だけといえそうだ。その際は、ぜひ抄録の文字数を増やし、「構造化抄録」の考え方をより強く反映させてもらえれば、と考える。その方が、査読もずっとラクになるはずだ。

 もっとも、査読を厳格化してアクセプトする演題を大幅に減らせば、自動的に抄録誌は薄くかつ軽くなり、内容がしっかりした演題だけ残るので一石二鳥といえる。だが、少しでも多くの参加者を募りたい学会からすれば、この提案は論外ということになるのだろう。
 

この記事を読んでいる人におすすめ