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 昨年12月の臨時国会で、「アルコール健康障害対策基本法」なる新法が可決、成立したことをご存じだろうか。テレビや新聞ではほとんど報道されず、取り上げられてもベタ記事扱いだったので、初耳という読者も多いだろう。

 2006年に成立した「がん対策基本法」に次ぐ第2の疾患対策法なのだが、メディアを含めて社会の関心が極めて低いのはなぜだろう。酒類メーカーがマスメディアの大口スポンサーとなっていることが記者たちの筆を鈍らせたのかもしれない。が、何より酒類が日本人の食生活に深く浸透していることもあり、アルコールの生体に及ぼす悪影響、社会に与える損失が如何ほどかをメディア関係者を含め多くの国民が認識していないためだと筆者は考える。

 厚生労働省研究班の試算によると、飲み過ぎによる社会的損失は年間4兆1483億円で、そのうち飲み過ぎによる疾患や外傷の治療費は1兆226億円に及ぶという。わが国で何らかのアルコール関連問題を有する人は654万人、依存症者とその予備群は440万人、治療が必要な依存症者は80万人、アルコール関連の疾患や外因による年間死亡者数は3万5000人と推定されている。

刑事処分を受けたDVの7割近くが飲酒のうえでの犯行
 また、飲酒運転で検挙された男性の5割、女性の4割が依存症の疑いがあり、深刻なDV(ドメスティック・バイオレンス)の3割、刑事処分を受けたDVの7割近くが飲酒のうえでの犯行という調査結果もある。自殺既遂者の家族に面接して自殺前の出来事などを聞き出す心理的剖検の結果、自殺既遂者の21%にアルコール関連問題の既往があったとの報告や、法医解剖が行われた自殺既遂者の血中アルコール検出率は48%と約半数に及んでいたとの報告もある。

 世界全体では年間およそ250万人がアルコール関連の原因で死亡しており、その数は世界の全死亡の3.8%、疾病負担の4.5%に相当するとして、WHO(世界保健機関)は2010年5月の第63回総会で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を決議し、加盟国に総合的な対策を求めた。

 わが国でもWHOが求める対策を実施するためには、国としての基本路線を示す法律が必要だとして、2010年夏にアルコール関連3学会が協働して基本法制定に向けて動き出した。全日本断酒連盟やアルコール薬物問題全国市民協会といった市民団体も加わり、「アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク(アル法ネット)」が発足。日本医師会や日本看護協会などの医療団体や学会に幅広く賛同を呼び掛ける一方、超党派のアルコール問題議員連盟が法案作りを進めた。関係省庁・団体へのヒアリングを経て、2013年5月に議員連盟が法制局に骨子案作成を指示。同年6月に法案がまとまり、11月の議連総会で全党合意が確認され、12月の国会で可決、成立した。

 アルコール健康障害対策基本法ではアルコール健康障害を「アルコール依存症その他の多量の飲酒、未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等の不適切な飲酒による心身の健康障害」と定義。健康障害の防止対策の実施に関して国・地方公共団体・事業者・国民・医師等・健康増進事業実施者それぞれの責務を規定した。医師等の責務としては、「国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力し、アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に寄与するよう努めるとともに、アルコール健康障害に係る良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」(第八条)と規定している。今後2年以内にまず国が基本計画を策定し、それを基に都道府県が地域の実情に即したアルコール健康障害防止対策を策定することになる。

 アルコール健康障害というと、依存症や急性中毒(異常酩酊)などの精神障害や肝臓・膵臓・食道など消化器系の臓器障害がメーンと思われがちだが、アルコールは生活習慣病や癌、認知症、うつ病など日常ありふれた疾患の要因あるいは増悪因子であることが近年の疫学研究などで明らかになっている。
 

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