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 先日、東京都薬剤師会が4月に発行した冊子『薬物乱用防止に関するQ&A』をぱらぱらとめくっていたら、覚醒剤のメタンフェタミン塩酸塩の添付文書が目に飛び込んできた。メタンフェタミンは、「ヒロポン」という商品名で今も医療用医薬品としてナルコレプシーなど限定的な疾患の治療に使われているのだが、私が見たのは市販薬時代のヒロポンの添付文書。第二次世界大戦中の1943年から覚せい剤取締法が制定される前年の50年までは、市販薬として薬局で販売されていたのだ。

 添付文書は現代においては、医療用医薬品と一般用医薬品のそれぞれに、記載すべき項目や記載方法が細かく定められている。だが、ヒロポンが市販薬として流通していた70年前の添付文書(能書)は、現代の添付文書に慣れた眼から見ると、驚くべき内容、表現にあふれていた。

 例えば、「作用及び特徴」欄のトップには、こんな記述がある(以下の記述には常用漢字を用いる)。

 「本剤は副作用なき強力なる中枢神経興奮剤にして、精神的及び肉体的活動を著明に亢進し判断力、思考力の増加と体力、作業能の高揚を来す」。

 副作用がない、と言い切っている。「薬には副作用がつきもの」という、現代の私たちの常識からすると驚くべき記述だ。もっとも、当時は添付文書の記載内容に対する規制が、今よりはずっと緩やかだったようで、昔の薬の添付文書では、「副作用がない」とか、それに類似した表現はよくあったことだという。

 ただ、当時のヒロポンの添付文書に、副作用に関する情報が全く書かれていなかったわけではない。後半の「用法及び用量」欄の末尾に、こんな記載がある。

 「副作用として大量使用の場合及び敏感な人にあつて、軽度の心悸亢進、温感、発汗、口渇、不眠等を訴へることがある。本剤の習慣性に就ては著明のものなく、勿論禁断現象などはない」。

 副作用が表れることはあるが、それは大量に使用した場合(用量・用法を守らなかった場合)や、使用者が敏感な場合に限られていて、症状は軽度である。著明な習慣性はなく、中断しても離脱症状は表れない、とある。本当にこの通りだとしたら、良いことづくめではないか。

 もちろん、この記述が、現代の私たちの常識に照らして「正しくない」ことは周知の通り。現代の、医療用医薬品としてのヒロポンの添付文書(2005年10月改定第4版)には、「重大な副作用」としてこんな記載がされている。

「依存性
 反復投与により薬物依存を生じるので、観察を十分に行い、用量および使用期間に注意し、慎重に投与すること」。

 また、「使用上の注意」欄にも、「反復投与により薬物依存を生じる」ことが明記されている。さらに、「薬物乱用の既往歴のある患者」への投与は禁忌となっていて、その理由として「反復投与により薬物依存を生じるので、乱用のおそれがある」と、きちんと記されている。
 

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