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 「インフルエンザは早期治療が大切」──。昨年12月に塩野義製薬が開始したインフルエンザ早期治療啓発キャンペーンが、医療従事者の間で波紋を呼んだ。子育て中の母親が「インフルエンザは早期受診が重要」と話すテレビCMで、最後にタレントが「今はお医者さんで治す点滴薬もあるのよ」と紹介するものだ。同社はウェブサイトで、症状などを選択して医療機関に持参するためのチェックシートを配布。チェックシートには希望の治療法を選ぶ欄を設け、点滴薬、経口薬、吸入薬の順に表示していた。

 テレビCMの放送開始後、その内容に異を唱える声が医療従事者から上がった。多くは、重症化リスクの高い患者以外でも早期の治療介入が必要であると受け取れる点や、治療薬として点滴薬が強調されている点を指摘していた。こうした批判の声は、一部のメディアでも報じられた。

 批判が相次いだことについて、塩野義製薬は「インフルエンザが疑われた場合、重症化を防ぐために早期受診や早期治療が重要だということを訴えたかった。点滴薬という剤形をアピールする意図はなかった」(同社広報)と説明する。だが指摘を受け、チェックシートから希望の治療法を選ぶ欄は削除した。テレビCMの放送は1月末で終了。「予算や反響などを考慮し総合的に判断した」(同)という。

 今回のキャンペーンが問題視されたポイントは、大きく二つあると考える。

 一つは、インフルエンザの治療で、早期の抗インフルエンザウイルス薬があたかも必須であるかのような伝え方をしたことだ。高齢者や妊婦、基礎疾患の合併などは、重症化のリスク因子となるため、治療薬の必要性は高くなる。一方、こうしたリスクのない患者にも抗インフルエンザウイルス薬を使うかどうかは、医師によって意見が分かれている。しかし、このCMを見た患者は、抗インフルエンザウイルス薬を使わないという医師の判断に納得しない可能性がある。

 もう一つは、治療薬の選択肢として経口薬、吸入薬、点滴薬を同列に扱っていることだ。国内唯一の点滴薬であるラピアクタ(一般名ペラミビル)の添付文書には、「本剤は点滴用製剤であることを踏まえ、経口剤や吸入剤等の他の抗インフルエンザウイルス薬の使用を十分考慮した上で、本剤の投与の必要性を検討すること」とある。こうした情報は消費者に届いていないため、消費者は自分が望めば点滴薬を使ってもらえると考えるだろう。診察室で点滴薬を希望された場合に、その適応を判断し、使えない理由を説明するという業務のしわ寄せが、医療従事者に集中することになる。

潜在患者の受診を促す疾患啓発CMが増加

 医療用医薬品は、厚生労働省の行政指導(医薬品等適正広告基準)により、消費者への広告は制限されており、商品名を明らかにして宣伝することができない。これは、広告を見て患者が特定の医薬品を希望することにより、医薬品が適正に使われなくなったり、患者が適切な医療を受ける機会を逸する可能性を考慮したものだ。一方で、消費者向けには、疾患啓発などを目的とした「DTCdirect to consumer)マーケティング」と呼ばれる広告が行われている。

 製薬企業がDTCマーケティングを行う背景には、潜在患者の受診を促し、自社製品の処方増につなげたいという考えがある。例えば慢性疾患で、1日薬価250円の薬剤で治療する場合、患者が1人増えると年間9万円の売り上げ増につながる。潜在患者が3000人見つかれば、2億7000万円。製作費などの諸経費と、期待できる売り上げの伸び、さらにその領域の自社製品のシェアなどを考慮して、DTCマーケティングは行われる。

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