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記者の眼

脳の栄養源ケトンでアルツハイマー病が改善、ゲノム編集技術で遺伝子の機能解析が加速

2013/12/26
河田孝雄=日経バイオテクONLINEアカデミック版

 こちらの「記者の眼」では3度目の執筆となります河田と申します。日頃はバイオテクノロジーの専門誌「日経バイオテク」(1981年創刊)の記事編集などに携わっています。本欄では1回目に「ビタミンDサプリメントの広告表示とエビデンス」(2013.1.29)を、2回目は「原著論文をネットですぐに確認できるオープンアクセスは、難病のわが子を救う願いから始まった」(2013.6.20)を掲載しました。

 今回は、2013年12月16日(月)からの週の取材を中心に、最近の話題をお届けします。

 月曜日(12月16日)は、著書「Alzheimer's Disease: What If There Was a Cure?」を2011年に発表したMary T. Newport医師が初来日して、順天堂大学大学院加齢制御医学講座教授の白澤卓二さんと対談するのを傍聴しました。

 この著書の一部は、日本語訳の書籍『アルツハイマー病が劇的に改善した! 米国医師が見つけたココナツオイル驚異の効能』として2013年6月に発行され、白澤さんが監修しました。

 米国フロリダのタンパベイ地区の新生児集中治療室の医長として診療を続けているという医師のNewportさんは、夫が55歳のときに若年性アルツハイマー病と診断されたため、インターネットを駆使して最新の研究成果などの情報を集め、中鎖脂肪酸を多く含むココナツオイルに偶然出会ったといいます。

 アルツハイマー病の人々は、脳の糖尿病にかかっていて、グルコースを細胞内に取り込むことができなくなってしまっています。中鎖脂肪酸を多く含むトリグリセリドを摂取すると、体内で中鎖脂肪酸がケトンに変換され、このケトンが、アルツハイマー病の人々の脳細胞でグルコースに代わるエネルギー源となります。ココナツオイルは、この中鎖脂肪酸のトリグリセリドを多く含みます。

 訳者は東北大学医学部出身の日向やよいさん。原書は3部構成で、著者は医師でもあることから、原書の第2部は、ケトンや中鎖脂肪酸、またそのアルツハイマー病との関係についての科学的・学術的な記述なのですが、翻訳書ではこの第2部は割愛したとのことです。

 翌火曜日(12月17日)は、パシフィコ横浜で開かれた独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成25年度NEDO新エネルギー成果報告会のバイオマス分野を取材し、ここでもココナツオイルが出てきました。独立行政法人産業技術総合研究所が発表した「バイオ燃料の品質規格及び計量標準に関する研究開発」で、バイオディーゼル燃料(BDF)の1つとして、ココナツオイルもカバーできる品質規格を作成したという内容でした。

 ココナツオイルは燃やせば燃焼熱が出ますので、燃料として利用できるわけですが、アルツハイマー病の対策に役立つ場合があることを考えると、できれば、人間の体内で、脳などの栄養源として燃焼させたいと思いました。

 さて、アルツハイマー病と中鎖脂肪酸に続いて、最近のバイオテクノロジーの技術革新として紹介したいのは、「ゲノム編集」です。火曜日のNEDOのバイオマス分野の発表会でも、ゲノム編集技術を利用した成果が発表されていました。

ゲノム上の特定部位で塩基配列情報を編集する
 ゲノム編集とは、ゲノム上の特定部位で塩基配列情報を編集することです。標的のDNA塩基配列を認識して2本鎖DNAを切断できる人工ヌクレアーゼ技術により可能になりました。ゲノムの情報は塩基配列として記録されています。この塩基配列の情報を、塩基数15から20ぐらいを認識して結合するパーツを設計することが可能になりました。20の塩基配列を認識するパーツをペアで利用すると、4の20乗(=約100億)の2乗、およそ1京オーダーの組み合わせに対応できます。これだけの組み合わせに対応できれば生物の全ゲノムの中から1カ所を特定することが可能になります。人間のゲノムは30億塩基対です。

 このゲノム編集技術により、動物や魚、植物、微生物などいろいろな生物のゲノムを編集することができるようになってきたのですが、医療との関係で一番インパクトが大きいと思われるのは、遺伝子の機能解析のスピードが飛躍的に向上していることです。

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