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 半年前の当コラムで、「腸内細菌が寿命を決める』は本当かも」というタイトルの文章を書かせていただいたが、その後も『大便力―毎朝、便器を覗く人は病気にならない』(辨野義己著、朝日新聞出版)、『病気の9割を防ぐ 腸の健康レシピ』(藤田紘一郎著、マガジンハウス)といった新書や単行本が続々出版され、「腸内細菌ブーム」はいまだに衰えそうにない。

 腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ――。先月も、理化学研究所と東大医科学研究所、慶應大先端生命科学研究所の研究グループが、11月13日付けの『Nature』オンライン版にこんな研究成果を発表した。

 一般にT細胞は免疫系の活性化に働くが、制御性T細胞は炎症やアレルギーの発端となる過度の免疫応答を抑える働きを持つ。同共同研究グループは、マウスに高繊維食を与えると制御性T細胞への分化誘導が起こることを発見。また、低繊維食を与えたマウスに比べ腸内細菌(クロストリジウム目細菌群)の活動が高まり、その代謝物の一つである酪酸の産生量が増加していた。さらに、その酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子の発現を高めることが分かったという。

 前回紹介した、「腸内細菌はパイエル板・絨毛M細胞、樹状細胞の樹状突起を介して取り込まれ、IL2などの産生を誘導し、その結果としてCD4+CD25+制御性T細胞を増殖・活性化することで宿主腸管免疫システムによる免疫防御応答を抑制し宿主との共生関係を成立・維持しているのでは」(東大医科学研究所炎症免疫学分野教授の清野宏氏)との仮説を裏付ける研究結果だ。

 近年、インフルエンザ感染後の肺炎・死亡などの重症化の要因として、宿主の過剰な免疫応答がいわれているが、その増悪や治癒には実は宿主の腸内細菌叢が密接に関与しているのかもしれない。

 自然界に目を移せば、土壌にも多数の細菌が生息しており、植物の生育に欠かせない役割を果たしている。植物は根毛付近に生息する微生物から分泌される種々の無機物(PやNなど)を栄養として吸収する一方、微生物も、植物の根から分泌されたり果実として土壌に落とされたりする様々な有機物を餌として、両者は共生している。化学肥料や農薬は作物の生産性を飛躍的に向上させたが、化学肥料や農薬で荒れた土地は病原菌が多く発生して土壌常在菌叢が乱れ、作物の生育に悪影響が出て長期的には収量が激減することが知られている。

一番大事なことは腸内の微生物相を豊かにすること
 常在菌の数や種類は栄養源の得やすさ、宿主の分泌する各種の抗菌因子の存在、土壌の酸素分圧のほか、栄養素摂取や根毛表面への定着を巡っての微生物同士の競合など種々の要因によって影響を受ける。従って、既に出来上がって平衡状態を保っている細菌叢に新たな病原微生物が侵入してきても、常に定着できるとは限らない。

 また、病原菌の中には増えすぎなければ植物に良い影響を与えるものもいる。土壌微生物学の世界では、植物の生育にとって一番大事なことは土壌の微生物相(多種の微生物)を豊かにすることだと考えられている。そのため近年、有機農法や無農薬栽培が見直されている。

 微生物との共生関係は、植物と動物に共通する生命の摂理ではないかと思えてくる。土壌=腸管、植物の根毛=腸の繊毛、化学肥料=加工食品、農薬=抗菌薬といえないだろうか。土壌の中で有機物を分解して植物に栄養を与えるのが土壌中の細菌であり、食物を分解し酵素をはじめ生命維持に欠かせない様々な物質を供給するのが腸内細菌である。土の中も腸の中も全く同じサイクルで循環している。土壌がやせれば植物は弱くなり病原微生物や害虫による被害も受けやすくなる。人間も腸内細菌叢が乱れれば弱くなり、病原微生物や薬剤耐性菌による被害も受けやすくなる。

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