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 日本乳癌学会は、診療の質を評価する「QI」(Quality Indicator)という指標を用いて「均てん化」の程度を測定する取り組みを2年前から進めている。診療ガイドラインで示した医療行為がどの程度行われているか、その遵守率を測定する試みで、標準的な診療の普及の程度や、癌診療の問題点が明らかになるものと期待されている。

 診療の質を評価するというと、皆さんはどのような指標を思い浮かべるだろうか。例えば乳癌治療であれば、市販されている病院ランキング本に掲載されている、手術件数や乳房温存率などが頭に浮かぶかもしれない。だが、手術件数や乳房温存率の数値は1つの情報として有用ではあっても、その値が高いことが診療の質の高さを示すとは限らない。

 また、新聞などで断片的に報じられることのある施設ごとの5年生存率も、早期症例を診療することが多い施設と進行例を診療することが多い施設の値は、当然ながら異なる。いずれの指標も、患者の状態や希望などで、その数値が左右される可能性がある。

 そこで日本乳癌学会は、QIの採用を決めた。同学会のQI小委員会委員長で自治医大乳腺科准教授の穂積康夫氏は「数値だけが一人歩きすることのないように配慮し、専門家集団の責任で自発的に乳癌診療の質を評価したいと考えた」と言う。

 具体的には、学会が発刊する「乳癌診療ガイドライン」を基に、QIを作成した。乳癌診療ガイドラインは、診療に携わる医師らが遭遇するであろう疑問についてクリニカル・クエスチョン(CQ)を設定し、それぞれの推奨グレードを示している。ガイドラインの情報は、いわゆる標準治療からコンセンサスのない分野にまで及ぶが、今回はガイドラインの推奨グレードA(「十分な科学的根拠があり、積極的に実践するよう推奨される」)のCQの中から、「これを実践していないとその施設の乳癌診療の質が低いと見なされても仕方がない項目」(穂積氏)を15項目選定した。

 例えば、ガイドラインに書かれている「HER2検査は浸潤性乳癌の治療方針決定に強く勧められる」という項目については、分母を「浸潤性乳癌患者数」、分子を「HER2検査が行われた患者数」と設定し、遵守率を算出する。

 現在は、作成したQIの妥当性を検証する作業が進行中だ。QI委員らが所属する6施設(大学付属病院3施設、がんセンター2施設、乳腺クリニック1施設)を対象に、2011年の乳癌診療についてQI測定が行われ、その結果は今年6月開催された日本乳癌学会学術総会で示された。いずれの施設も15項目の遵守率はそれぞれ8~9割で、推奨治療が実施されなかった理由は「超高齢者では実施しない」「高齢であることに加え併存症のため」「微小浸潤では実施しない」などだった。今年もさらに研究を進め、作成したQIの妥当性を検証していく。

「QIの値そのものが重要なのではない」
 QI測定では標準的な診療の遵守率を算出するものの、「QIの値そのものが重要なのではない」(穂積氏)という点に特徴がある。値が低かった場合に、なぜ推奨治療が実施されなかったのか、その理由を各施設が検証することに意味があり、改善が必要だと思われた場合は自助努力してもらう。そうすることで初めてQI測定がその力を発揮するという。

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