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 わが家の4歳になる娘はごっこ遊びが大好きだ。

 先日、弟の診察に付き添ってくれた娘がかかりつけの小児科から帰宅すると、「お医者さんごっこしよう!」と張り切っていた。しかし、持ってきたのは聴診器でも注射器でもなく、私が仕事で使っているノートパソコンだった。

 「これでお医者さんごっこできるの?」と私が尋ねると、娘は「○○先生(かかりつけの医師)はパソコンやってたよ」と返してきた。どうやら、医師が診察しながら電子カルテを入力していたのをしっかり観察していたようだ。「今日はどうしましたか?」「熱は高いですか?」などと一丁前に問診をしながらキーボードを打っている(呪文のような文字の羅列だが)。一通りの質問が済んだところで、ようやく聴診器が登場した。

 私が小さい頃、お世話になった先生は診察の記録を紙のカルテにスラスラと横文字で書いていた。患部の状態を書き残すのに、咽頭部などの簡単なシェーマを描いているのを興味深く見ていたのを覚えている。それから数十年経って情報技術(IT)が格段に進歩し、今や電子カルテやレセプトのオンライン化はすっかり当たり前になった。

 最近、「テクノロジー失業」という言葉を時々耳にする。テクノロジー失業とは、通信技術や機械技術などの発展によってこれまで人間が行っていた作業が機械や装置に取って代わられてしまい、働き手が職を失うことを指す。科学技術の発展は人間の仕事を助ける半面、人から仕事を奪うという面を持っている。

 薬局薬剤師の仕事にもじわじわと科学技術が入り込んできている。処方内容や患者さんの様子、服薬指導の内容などを書き込む薬歴電子化されている。また、愛知県豊田市にあるグッドライフファーマシーでは、調剤室のマシンが自動で薬のピッキングから鑑査、薬袋に入れるまでの一連の作業をすることが知られている。記憶に新しい、一般用医薬品(OTC薬)がインターネット経由で購入できるようになったこともITの進歩によるものだろう。薬剤師によるOTC薬の対面販売は、いつかパソコン上の画面に取って代わられてしまうのかもしれない。

 いわゆるルーチンワークはコンピュータやマシンが得意とする仕事で、人間の作業よりミスが少ないと言われている。それらに「仕事を奪われる」と言うと良からぬことのように聞こえるが、そこは発想を転換してコンピュータやマシンに「仕事を預けて」、私たちはこれから人間にしかできない仕事を突き詰めるべきではないだろうか。

 科学技術がどんなに発達しても、コンピュータの処理能力がどんなに速くなっても、「五感を使い、人が人のために、人のことを思ってする医療はコンピュータやマシンにはできない」と私は信じている。効率化や標準化のために技術革新を追う一方で、人間がやるべきこと、やらなければならないことを追求することが、医療を血の通ったものとし続けるために不可欠なのだと思う。

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