日経メディカルのロゴ画像

 「腸内細菌」本がブームだ。2013年4月以降、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣 -腸内細菌を育てて免疫力を上げる30の方法-』(藤田紘一郎著、ワニブックス)『乳酸菌生活は医者いらず』(同、 三五館)『からだの中の外界 腸のふしぎ』 (上野川修一著、講談社)『整腸力 -医者・薬いらずの体をつくる腸内改革-』(辨野義己著、かんき出版)といった新書サイズのお手軽な健康本が相次ぎ出版され、書店の一角を賑わせている。

 総合月刊誌『文藝春秋』は5月号で「医療と健康の常識を疑え」と題した大型特集を組み、「腸内細菌が寿命を決める」との見出しを掲げた座談会記事を掲載。座談会メンバーの一人、理化学研究所特別招聘研究員の辨野義己氏は「肉ばかり食べていると、腸内に悪玉菌がのさばり、さまざまな病気の引き金になる」「食事の欧米化が腸内細菌の欧米化にもつながり、大腸癌が増える原因となったのは間違いない」と発言している。

 ブームの仕掛け人はどうせ乳酸菌飲料やヨーグルトのメーカーだろうと勘ぐる方々も多いと思うが、近年ゲノム解析の技術が腸内細菌の研究にも応用され、疾患の発症や生体の恒常性維持に直結する様々な興味深い新知見が得られてきているのも事実だ。

 公益財団法人日本ビフィズス菌センター(日本腸内細菌学会)理事長で東大名誉教授の上野川修一氏は、上記著書の冒頭で「『サイエンス』誌が、過去10年間の科学上の十大成果の一つに、宇宙や気候変動の研究と並んで、腸内細菌の研究を挙げたほどだ」と述べている。寄生虫博士として名を馳せる東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏も著書の中で、「健康のために、私たちが最も気を使うべき相手は、『腸内細菌』であることが、近年の研究で明らかになってきた」とまで言う。

 ヒトの腸管内には1000種類以上、一人当たり10~100兆個の腸内細菌が共生しており、食餌成分の分解・吸収を助けている。例えば、善玉菌と呼ばれる乳酸菌やビフィズス菌は、ヒトが分泌する消化酵素だけでは分解できない繊維質を乳酸や酢酸、酪酸などの短鎖脂肪酸に分解し、エネルギー源に変える。産生された短鎖脂肪酸は腸壁を刺激して蠕動運動を活発にする。

 腸内の常在菌は宿主に対して栄養素やエネルギーを供給するだけではない。免疫臓器としての腸管上皮に抗原刺激を常時与えることにより、腸管局所のみならず全身の粘膜免疫機構にも重要な役割を果たしている。

 腸管内には、小腸に点在するパイエル板というリンパ組織を中心に全身の免疫担当細胞(白血球)の6~7割が集まっている。病原体などの異種抗原が侵入するとヘルパーT細胞とマクロファージが誘導され、B細胞が分泌型IgA抗体を産生する。分泌型IgA抗体は腸管腔内に放出されるだけでなく、毛細リンパ管を介して唾液腺や涙腺、乳腺などの粘膜にも運ばれ、全身各所で防御機能を発揮する。

粘膜免疫システムに不可欠な腸内細菌
 そんな粘膜防御機構における重要な液性分子である分泌型IgA抗体の産生を誘導しているのが腸内の常在菌であることが、メタゲノム解析の手法に基づく研究で分かってきた。東大医科学研究所炎症免疫学分野教授の清野宏氏らは、パイエル板内部には日和見細菌群の一種Alcaligenesが普遍的かつ優勢的に存在しており、同菌がIgA産生誘導サイトカインであるインターロイキン(IL)6の産生を増強することを報告している(Proc Natl Acad Sci U S A 2010;107:7419-24.)。

 一方、潰瘍性大腸炎やクローン病の患者のパイエル板内にはAlcaligenesがほとんど検出されず、炎症性腸疾患モデル動物では腸炎の発症に伴いAlcaligenesに対する糞便中IgA抗体価が減少したという。
 

この記事を読んでいる人におすすめ