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記者の眼

独居のご近所さんが認知症っぽいが…。あなたならどうしますか?

 気づいたのは、ほんのささいな違和感からだった。

 私が住む家の近くには、一人暮らしの高齢のご婦人がいた。きれい好きと見えて、毎朝の自宅近辺の掃除を日課として過ごされていた。会えば「今日は暑いですね」など、他愛ないあいさつを交わすことも多かった。

 数年前のある朝、同じように掃除されているその方を見かけ、声をかけた。受け答えはいつも通りだったが、何か違和感があった。いつもきちんと髪をまとめ、身だしなみも小ぎれいにされているのに、その日はなぜか起き抜けのようで、服も寝間着そのままのように見えた。「疲れてるのかな?」と、その時は特に気にも止めず、あいさつを交わして仕事に向かった。

寝間着のまま外に出て、ごみを空き地に置くように
 けれどそれ以降、違和感は日々大きくなっていった。日課の掃除は欠かさないが、服装はいつも寝間着のまま。しばらくすると、ごみの出し方が分からなくなってしまったようで、空き地に置いていくようになった。

 そしてある日、家の近所で「帰り方が分からなくなった」と、近所の方に道を聞くようになった。どう見ても認知症の症状だ。「どうすればいいと思う?」と妻に問われてみて、これは意外と難しい問題だぞと思い至った。

気づいても、誰に相談したらいいか分からない
 介護分野の取材を通して、認知症に関する知識はひと通り頭に入っている。初期段階で適切に介入し、認知症の専門医や介護事業者につなげ、進行を遅らせるのが大事だと、記事中では何度も書いてきた。

 だが、誰にどうやって話をつなげればいいのだろう?

 私の家族をはじめ、その地域の半数は10年ほど前に引っ越してきた新しい世帯だ。昔からそこに住んでいるご婦人と深い付き合いはなく、家族関係も分からない。古い世帯の近所付き合いも希薄なようで、つながりが全く見えてこないのだ。「あなたは認知症みたいだから、ご家族の連絡先を教えてくれ」などと言うわけにもいかない。

市の担当部局に電話をかけるも…
 自治会などを通じて、お子さんなど家族の連絡先が分かったとしても、単なる近所の人間が電話をかけるのは、相当にハードルが高い。「近所の者ですが、あなたのお母さんは認知症のようです。医療機関や介護事業者に相談した方がいいと思います」──。決して愉快な話ではないし、相手によっては「なんでこの電話番号を知っているんだ!」などと逆に不審者扱いされかねない。

 とはいえ、このまま放置するのは、人として道義にもとる。いろいろ考えた挙句、市の介護福祉課に、「実は近所に認知症らしい方がいまして……」と電話をかけた。そのやり取りは非常にお役所的で、面倒かつ要領を得ないものだったが、その後、地域包括支援センターに話がつながり、ケアマネジャーを経てご家族に話がつながった(ようだ)。

 しばらくして他県に住む息子さんという方が、「自宅近くの有料老人ホームに入居してもらうことにしました」とあいさつに来訪した。ご婦人も、状況をきちんと理解できているのかは分からなかったが、その表情は以前よりも安心しているように見えた。

地域包括ケアシステムが期待する「地域の力」への違和感
 厚生労働省によれば、2002年に149万人だった認知症高齢者は、12年には305万人と、ここ10年で倍増している。増加ペースは従来の予測を上回っており、20年には410万人、25年には470万人に達する見込みだ。今後、10年そこそこで100万人もの認知症高齢者が増えるとなれば、先のご婦人のようなケースは決して珍しいものではなくなるのだろう。

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