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記者の眼

患者の主観が薬の有用性を決める時代に

 昨年9月にベバシズマブ(商品名アバスチン)の脳腫瘍(再発膠芽腫)に対する承認申請が行われた。これまで、膠芽腫に対して有効な薬剤はテモゾロミド(テモダール)くらいしかなかったことから期待を集めている。

 そのすぐ後、第17回米国脳腫瘍学会では、初発の膠芽腫患者に対するベバシズマブの効果を検証したAVAglio 試験の中間解析結果が発表されたが、無増悪生存率(PFS)や総死亡率(OS)といった結果以上に関心が集まったのは、副次評価項目に加えられていたQOLについてだった。

 近年、新薬の承認において、QOLの評価が重要視されている。FDAが新薬を承認するためのポイントは「LIVE LONGER」とともに「LIVE BETTER」。もちろん、疼痛治療薬など、患者の主観でしか効果を評価できない薬剤もあるが、それ以外の疾患領域でもQOLが重視されてきているのだ。2006 年以降にFDAで承認された抗癌剤の25%以上が、PRO(Patient-reported outcomes:患者報告アウトカム)によるQOLも評価対象としており、その結果を添付文書にも記載している。

 歴史的にみれば、1980年代の日本では、「全般改善度」などといった医師による主観的な評価が用いられていた。その後、評価に再現性が求められるようになり、医師の主観ではなく客観的な指標に置き換えられた。そして、今、その限界も明らかになってきたというわけだ。この背景には、単なる延命ではなく自身のQOLも重視するという、患者ニーズの変化があるのは間違いないだろう。

 例えば関節リウマチでは、欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が、関節リウマチの寛解基準に患者自身が評価する全般評価を組み入れた。しかし、疼痛関節数や腫脹関節数、CRPといった他の指標が寛解基準に達しているのに、患者の全般評価だけが基準に達しないため寛解と判定されない患者が多いといった指摘がなされ、議論を呼んでいる。そこで明らかになったのは、患者が全般的な評価を決定する際に重視していたのは疼痛だったのに対し、医師が全般的評価で重視していたのは腫脹関節数だったということだった。患者と医師の総合的な評価は、異なる視点でなされていたのだ。

 PROは、被検者の症状に関して被検者自身が判定し、医師をはじめとする他者が関与しないという評価方法。ただし全ての領域の評価に適するわけではなく、FDAは20疾患を選定しツールの開発などの検討を行うとしている。

 最初に挙げた脳腫瘍に関しては、多くの脳外科医はPFSが延長すればQOLが保たれるだろうと実感していたが、PFSとQOLが相関するというデータはこれまでなかった。

 AVAglio 試験では、QOLは、EORTC QLQ-C30と脳腫瘍特異的な指標であるQLQ-BN20を用いて評価されたが、PFSの延長とともに、QOLの安定以上(安定もしくは改善)の期間がベバシズマブ群において2カ月から4カ月長い傾向を示し、「腫瘍の増殖が抑制されている= QOLが保たれる」ということが証明された。この結果は、臨床医には好意的に受け止められているようだ。

 一方、PRO重視の流れには、患者のニーズといった点とは別の側面も存在する。つまり、新薬の開発において、OSやPFSといったハードエンドポイントだけでは脱落してしまう薬剤を救済できるという点だ。

 日本では今、薬剤の承認に関して費用対効果が注目されているが、もう1つ、PRO重視という流れも太くなっていくだろう。もちろん臨床の現場では、患者が納得しなければ効いたことにならないというのは、なにを今さらだろうが。

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