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記者の眼

要注意! H7N9はステルス型インフルエンザウイルスだ

2013/04/16
宮田満=日経BP社特命編集委員

 中国国家衛生・計画出産委員会が2013年3月31日、上海市と安徽省でH7N9鳥インフルエンザに3人が感染したと発表して以来、4月14日現在で既に感染者は60人、そして死者は13人を突破、とうとう揚子江デルタから首都北京まで飛び火しました。

 現在までにヒトにH7N9インフルエンザウイルスが感染した履歴がないことから、免疫学的にヒトはH7N9に対して無防備であり、ヒトに感染した場合は重篤な肺炎などを生じる危険を専門家は指摘しています。また、既に患者4人から分離したH7N9のゲノム配列が公開されていますが、国内外の感染症研究者はこのウイルスはヒトへ感染しやすくなる遺伝子変異(WHO〔世界保健機関〕は好ましくない遺伝変異と表現)を持っていることを明かにしています。

 唯一の希望はWHOがヒトとヒトの間での感染をまだ認めていないことです。ヒト・ヒト感染が起これば、これは間違いなくパンデミックの始まりです。現在、合計800人以上のH7N9の感染者との濃厚接触者を中国では隔離観察しておりますが、今のところ妻が発症後、夫の感染が発覚した1例があるのみで、WHOはまだヒト・ヒト感染が起こるようなH7N9の遺伝子変異が起こっているとは認めていません。このまま散発的な鳥などからのヒトへの一方的な感染で収まれば、我が国への波及も懸念しなくても済むのです。

 しかし、これは楽観的な期待に終わるかもしれません。今までの新型鳥インフルエンザウイルスの対策は、暗黙の前提として鳥などの中間宿主に対しても強毒性のウイルスを想定していました。鳥や豚などの大量死の報告を受けて、ヒトへの感染を防御する対策を打つ、というのが防疫の手順でした。ところが今回のH7N9はこうした常識を裏切るものだったからです。

 WHOによれば、近代的な疫学研究が始まって以来、H7N9は鳥などの中間宿主に対して弱毒性インフルエンザウイルスがヒトに感染し、強毒性を示した初めての例となりました。つまり、H7N9は一種のステルス型の新型インフルエンザウイルスなのです。鳥や豚などの大量死が観察されず、突然、重篤な呼吸器症状を示す患者が発生、医師たちはインフルエンザを想定することも許されず、緊急対応せざるを得ない状況に追い詰められるのです。現在までに3例のH7N9の感染症例がNew England Journal of Medicine誌などで発表されていますが、新型インフルエンザとは初診で認識されず、いずれの症例でも効果があることが確認されているノイラミニダーゼ阻害薬の投与が遅れ、治療効果を得ることができませんでした。

 H7N9のステルス性が、鳥などの中間宿主でのH7N9の感染の蔓延を招き、上海市、浙江省、江蘇省、安徽省、河南省、そして北京市という広域で感染者が見いだされる原因となっています。香港の研究機関は概にH7N9に感染した渡り鳥が北上そして南下する季節を迎えたと、「渡り鳥感染源説」を打ち出していますが、まだこれも確証を得たものではありません。いずれにせよ、中国のかなり広範囲にH7N9の感染が見えない形で潜在していると考える必要があるでしょう。

 感染した患者の数が増えれば、ヒト・ヒト感染を可能とする変異型H7N9が発生するリスクも増大します。まさにパンデミック化するリスクは時と共に増す一方なのです。通常のインフルエンザウイルスと同様、H7N9が湿気に弱いことを期待すると、湿潤な夏の到来とのぎりぎりのデッドヒートを展開しているのが現状です。

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