日経メディカルのロゴ画像

記者の眼

「受ければ安心」の声を聞く乳癌検診だけど…

 自分の身体を健康に保つことは自然な欲求で、社会人としては「病気になんてなっていられない」状況である人も多いだろう。最近、記者が同世代の友人数人と集まったときのこと。仕事の話や健康維持の話をする中で、癌検診についての話題になった。

 記者と同じ20歳代後半の女性である友人たちは、女性特有の癌である乳癌や子宮頸癌に対する関心がとても高い。実際に子宮頸癌検診を受けたことのある人はいたが、乳癌検診を受けたことのある人はいなかった。しかし、乳癌は近年映画やドラマで話題になったこともあり、しこりの探し方やマンモグラフィーの手順など、一定の知識は皆持っている。

検診受診は本当に「良いこと」か?
 友人たちは、乳癌検診のメリットについて十分に理解していた。おおむねの認識は、「癌を早期発見・治療できる」「検査時に多少の痛みは伴うらしいが、異常がないと判定されれば安心できる」というもの。友人たちにとって、検診を受けることは良いことであり、「検診をきちんと受ける人は意識が高くて偉い」という発言が出るほど、全員が肯定的だった。一方で、乳癌検診にもデメリットがあると言われていることを知る人はいなかった。

 検診によって期待される死亡率減少効果は、検診の有用性に直結する。しかし一方で、この効果を上げるためにどれだけのデメリットが生じるか、ということを天秤にかけて考える必要がある。乳癌検診は、そんな段階に進んでいる。

 議論が進んだきっかけは、2009年11月に米国予防医学専門委員会(USPSTF)が40歳代のマンモグラフィー検診の推奨グレードを「推奨」から「一律には推奨しない」へ引き下げたことだろう。40歳代の女性1000人を検診した場合に、デメリットの1つである偽陽性となる割合が他の年代よりも高いこと、39歳から49歳で見ると、乳癌により死亡する人を1人回避するために必要なマンモグラフィー検診必要対象者数が50歳から69歳に比べて高いことなど、40歳代は検診によって得られるメリットが小さいとする米国Breast Cancer Surveillance Consortium(BCSC)のデータを受けての改訂だった。

 改訂の理由を「40歳代で乳癌検診を受診した場合、実際に癌を発見することによるメリットよりも、(1)経済的損失、(2)検査の結果、癌ではなかった場合でも精神的負担があること、(3)放射線被曝や、針を刺したり組織を採取することによる身体的苦痛、(4)精密検査を行うための医療費の負担増、(5)眠れない、食欲がなくなる、仕事にも行けないといった過敏反応が起きた場合の社会活動の損失――といったデメリットの方が大きい」としたわけで、米国内外で議論が巻き起こった。

 陽性の判定が下れば、実際には癌ではなかったとしても精神的負担は計りしれない。気軽な気持ちで子宮頸癌の検査を受けた友人は、要再検査と判定された。その後の精密検査で陰性だったことが分かったものの、「要精密検査と言われてから陰性と分かるまでの間は、急に死が身近に感じられ、怖かった」とつぶやいた。

 加えて、必ずしも必要のない治療が行われる恐れもある。非浸潤性乳管癌(DCIS)は、乳癌死亡率に影響を与えないこと、検診で見つかる癌のうち非浸潤癌は3割程度を占めること、DCISが浸潤癌になるには10年ほどかかることなどから、あまり早期に発見しても乳癌の死亡率減少には結びつかないという意見もある。しかし、癌が見つかれば治療しないわけにはいかない。切除などの侵襲的治療が施され、身体的・精神的苦痛を受けることもある。

この記事を読んでいる人におすすめ