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 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故後、福島では当時18歳以下だった県民を対象に甲状腺検査が行われている。チェルノブイリ原子力発電所の事故で、小児の甲状腺癌が増えたことを受けてのものだ。エコーで「結節や嚢胞を認めない(A1判定)」「5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞を認める(A2判定)」「5.1mm以上の結節や20.1mm以上の嚢胞を認める(B判定)」「直ちに二次検査を要する(C判定)」の4段階で評価し、B、C判定の場合は二次検査を行う。これまでに約13万人の検査が行われた。

 検査では99.4%がA判定で、二次検査は不要とされた。ただ、41.2%は5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞を認めるA2判定だった。チェルノブイリの事故で甲状腺癌が増えたのは事故から4~5年経ってからであり、県は「この検査の時点で被曝の影響があったとは考えにくい」と説明した。しかし、「福島県の結果と同じ傾向が他の地域でも見られるかは分からない」といった報道もあり、他県での甲状腺検査を求める論調が高まった。

 このため、資源エネルギー庁は福島県外の甲状腺有所見率の調査事業の実施を決定(その後、事業は環境省に移管)。日本乳腺甲状腺超音波医学会が委託を受け、昨年11月以降に青森、山梨、長崎の3県で3~18歳の計4365人を対象に検査を行った。環境省によると、この3県の検査には約5000万円かかったという。

 環境省は今月、3県の検査で56.6%に5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞が認められたと発表した。福島県より有所見率が高かったことについて、同省は「検査対象者の年齢分布が異なることや、エコーでは血液検査などの定量的検査に比べて誤差を生じやすいといった事情があり、有所見率はほぼ同等という結果ととらえている」と説明する。

対照群が県外である必要はあったのか
 今回の検査結果から、少なくとも福島県の甲状腺有所見率が他県に比べて高いわけではないことが分かった。この報告により、多くの住民の不安が解消されただろう。ただ、県外での検査が本当に必要だったのか、疑問が残る。以下にその理由を述べたい。

 一点目は、現在行われている甲状腺検査が、そもそもベースラインの把握を目的として行われたものであるということだ。チェルノブイリの事故では、甲状腺癌が増えたのは事故から4~5年経ってからだった。そこで福島県は、放射線被曝の影響がまだ表れていないと考えられる時点の現状把握を目的に、甲状腺検査を開始した。検査の前提を考えると、結節や嚢胞の有所見率が高かったことについて、県は「原発事故との因果関係はない」と強く主張してしまってよかったのではないか。

 次に、対照群との比較が必要だとして、県外である必要があったのかという点だ。環境省は、原発事故による放射線の影響が少ないとみられる地域として青森、山梨、長崎の3県で検査を行った。しかし、他県での検査を求める論調が高まっていた当時、ある専門家は「福島県でも会津地方などは線量が低く、放射線の影響は少ないと考えられ、対照群となり得るのではないか」と話していた。実際、福島県の調査で最も空間線量が高かった4カ月間の外部被曝線量を推計した結果、会津地方や南会津地方では99%以上の人が最も被曝線量の少ない「1mSv未満」と推計された。

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