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 4月から和歌山県立医大に、癌の患者団体からの寄付による「がんペプチドワクチン治療学講座」が開設される。講座の管理・運営は第二外科の山上裕機教授が行い、そして「市民のためのがんペプチドワクチンの会」が寄付講座を支援する。講座では全国多施設における共同臨床試験を展開し、新規の癌治療法を開発するとともに、癌ペプチドワクチン治療のエキスパートを育成するとしている。

 具体的には、夏頃をめどに、膵臓癌40人、食道癌40人を対象に、癌ペプチドワクチンによる3年間の臨床試験を行う予定。寄付口座の維持には、3年間で3000万円が必要で、市民のためのがんペプチドワクチンの会は、半年ごとに500万円の寄付を集める計画だ。最初の納入は3月末、同会のWEBサイト(http://www.ccpvc.org/index.php)を見ると、2月25日時点で寄付の額は89万2513円となっている。

 市民のためのがんペプチドワクチンの会の母体は「市民のためのがん治療の会」。舌癌患者であった代表の會田昭一郎氏が、セカンドオピニオンの情報提供を中心とする活動を行っている中で、癌ペプチドワクチンの権威である現シカゴ大教授の中村祐輔氏と出会ったのがその発端だ。

 東大医科学研究所の教授であった中村氏は、先端医療開発特区(通称スーパー特区)を開設するなど、技術開発を阻害する要因の克服に取り組んできた。2011年には、日本から先端的な医薬品・医療機器を創製することを目的に民主党が内閣官房に設置した「医療イノベーション推進室」の初代室長に就任している。

 医療イノベーション推進室は、技術開発への支援策が厚生労働省、経済産業省、文部科学省に分散している現状を見直し、予算とその配分機能を持つ組織を設立することを目指していた。中村氏も当時、「縦割り予算を排すため、将来は関連省庁から権限と予算を分離して、日本版NIHの創設につなげたい」と発言している。しかしながら、権限を失うことになる各省庁の抵抗は強く、中村氏は2011年末に同室長を辞任し、シカゴ大へと転出したのはご存じの通り。結局その支援策は、翌年夏に「創薬支援ネットワーク」というところで決着した。早い話が、「各省庁が連携してうまくやってね」という形でお茶を濁したということだ。

 そして政権交代。2月22日に管義偉官房長官は、内閣官房に「健康・医療戦略室」を設置すると発表した。「医薬品・医療機器を戦略産業として育成し、日本経済再生の柱とすることを目指す」という。厚労省もこれを受けて、実働部隊として「健康・医療戦略推進本部」を設置した。健康・医療戦略室は、NIHがモデルだとする報道もある。医療イノベーション推進室は廃止となるが、「健康・医療戦略室」と何が違うのかはまだわからない段階だ。「iPS細胞」という追い風が吹いていることは、前政権との大きな違いではあるが。

 ところで、「中村氏が医療イノベーション推進室を辞めたがっている」という噂が流れ出したのは、2012年予算の概算要求が終わったころからだという。翻って自民党政権下での2013年度政府予算案をみると、民主党政権の目玉だった厚労省の「医療イノベーション5カ年戦略」関連の予算は大幅に減少し、「創薬支援ネットワーク」という言葉も消えている。一方目立つのは、経産省の「再生医療等産業化促進事業」で、1年間に3社程度を採択し、企業が行う再生医療の臨床試験に1社当たり2億円から3億円の補助を行うというものだ。文科省が基礎、経産省が装置や基準作り、厚労省が臨床を担当するといった、従来の枠組みを超えるものになっている。省庁間の競争が激しくなるのは間違いないが、それが各省庁を刺激し、開発が進むという見方もできる(かもしれない)。

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