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記者の眼

新型インフルエンザワクチンの国家プロジェクト、1社撤退の波紋
厚労省はプロジェクトの在り方を見直すきっかけとすべき

2012/12/14
橋本宗明=日経バイオテク

厚生労働省が入る霞ヶ関の合同庁舎5号館

 感染症用ワクチンなどのメーカーである阪大微生物病研究会(阪大微研)は2012年11月22日、厚生労働省が進めていた細胞培養法による新型インフルエンザワクチンの開発・生産のプロジェクトから撤退する旨の申し出を厚労省に対して行った。

 同社は化学及血清療法研究所、北里第一三共ワクチン、武田薬品工業とともに、2011年8月に総額1000億円規模の厚労省のプロジェクトに採択され、新型インフルエンザによるパンデミックの発生から約半年で全国民分(計1億3000万人分)のワクチンを国内で生産・提供できる体制の整備を目指していた。阪大微研は、このうち約240億円の交付金を受け、2500万人分以上の生産体制を整備する計画だったが、開発が順調に進まず、国が目標とする2013年度末までの製造販売承認の取得(2012年度中の承認申請)が困難となったため、交付金を国に返上してプロジェクトからの撤退を決めた。

 これを受けて厚労省は、承認申請時期を2014年度末までと1年間延長した上で、返納額の240億円を上限に、再公募を実施する方針だ。確かに、いつ起こるとも分からない新型インフルエンザに対して、阪大微研の撤退でできた2500万人分の穴を早急に埋めておきたいという考えも分からないではない。しかし、プロジェクトを開始した当初とは状況が変化する中で、ただ2500万人分の穴埋めをするのが正しいのかどうか、プロジェクト全体の枠組みは見直さなくてもいいものか。この機会に改めて議論してもいいのではないかと考えている。

“新参者”の2社は採択されず
 このプロジェクトは、2009年度の第1次補正で計上された1279億円の予算に基づいて開始されたものだ。現在のインフルエンザワクチンは、ニワトリの受精卵にウイルスを接種し、増殖させて製造しているが、受精卵の準備等に時間がかかることから、より短期間でワクチンを製造できる細胞培養法の開発に光が当てられ、基金を設けて開発が進められることになった。細胞培養法とは、鶏卵ではなく動物の培養細胞などにウイルスを接種して増殖させてワクチンを製造する技術だ。予算化の際に「5年以内」という目標を掲げたことが、「2013年度末まで」という期限につながっている。もちろん5年で実現しなければならないという科学的根拠はない。

 プロジェクトではその後、実験用プラントの整備などに合計100億円程度を交付した後、2011年8月に実生産設備への交付金の交付先として冒頭に挙げた4社を採択。1社当たり240億円から300億円の資金を交付することになった。4社のうち武田薬品を除く3社はいずれも以前から国内でインフルエンザワクチンを生産してきたメーカーであり、武田薬品も90年代半ばにインフルエンザワクチンから撤退したものの、今回の採択を契機にインフルエンザワクチン事業への再参入を図っている。一方、応募しながら採択されなかった企業が2社あった。スイスNovartis社の日本法人であるノバルティスファーマと、バイオベンチャーのUMNファーマ(秋田市)で、ともに日本でのワクチン事業者としては“新参者”だ。厚労省はこの採択の時、1.専門的・学術的観点、2.事業継続の観点から評価を行い、厚労大臣が、3.行政的観点を含めた総合的な評価を行って決めたと発表しているが、2社がどのような理由で採択されなかったのか、詳細は明らかにしていない。しかし、既存の4社が採択され新規参入を図った2社が不採択となった結果からは、厚労省の保護主義的姿勢が見て取れる。

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