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 今年2012年は、6年に1度の「診療報酬・介護報酬同時改定」の年だった。その大きなテーマの一つが「医療・介護の連携」である。診療報酬と介護報酬のそれぞれに、両者の連携を促す様々な措置や加算が盛り込まれた。

 2000年の介護保険制度の創設で、高齢者ケアが医療保険から切り離されて以来、医療機関と介護事業者の連携は大きな課題だった。だが実際には、介護保険マーケットに新規参入する介護事業者が大幅に増えた半面、医療機関との連携が進んでいるとは言い難かった。そんな経緯から、厚生労働省は今回の同時改定で思い切った手を打ったといえる。ただ、その成果が短期間で表れるかどうかは疑わしい。

 私は介護業界でかれこれ20年近く取材してきたが、介護職から「医療職とのコミュニケーションが難しい」という声をよく耳にしてきた。主な理由の一つは、介護スタッフの意識に「医療は介護より上」という“序列”ができていることだ。医師、看護師の前では気後れして、対話するのも苦手という介護職が想像以上に多いのである。

 その背景について、以前、訪問介護サービス会社の社長から興味深い話を聞いたことがある。

 社長の持論はこうだ。「日本の医療界は西洋医学が主流で、体系的な知識や論理的な思考力が重視されるせいか、典型的な学歴社会になっている。一方、介護業界にはプロの野球選手やお笑い芸人などを目指し、夢を諦めたという異色の経歴の持ち主が少なくない。様々な世界を経験したユニークな人材は介護職に多いが、学歴という点ではどうしても見劣りがしてしまう。医療職との間におのずと上下関係が生まれ、介護職は苦手意識を持ちやすい」

「とっつきにくい性格の医師でも腕が良ければいい」
 また、この社長によれば、患者(要介護者)の医療と介護に対するニーズがそもそも異なることも、連携が進まない一因だという。「医療の目的はあくまでも病気の治療なので、少々とっつきにくい性格の医師でも腕が良ければ患者は満足する。一方、介護に高齢者が期待するのは生活のサポートなので、おむつ交換などのスキルより、ヘルパーの人柄の方がよほど重視される」

 「ヘルパーの人柄」という言葉から分かる通り、介護サービスに対する顧客満足度の中身は漠然としていて、要介護者へのアプローチ方法も医療のように定型化されていない。「例えば、ヘルパーが要介護高齢者のケアをしていると、『家族に迷惑をかけたくないから死にたい』『でも、やっぱり死にたくない』と揺れ動く姿を目にすることがある。利用者のそんな複雑な感情をくみ取りながら、一人ひとりに合った自立支援の方法を見つけていくのが、優れた介護なのだ」とその社長は力説していた。

 合理性を追求する医療職と、人の感情を重視する介護職。両者の意見はなかなかかみ合わず、時にケアの方針を巡って衝突する。本来、ケアマネジャーが橋渡し役を務めるべきなのだろうが、介護職出身が多いため、医療職との壁を打ち破るのは難しい。

 たとえ診療報酬や介護報酬で経済誘導を図ろうとも、本質的な課題は依然として残るだろう。医師や看護師などの医療従事者の方々は、この問題をどのように考えておられるだろうか。

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