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アメ、ナメ、ビル、今までの同効薬とどう違う?

2017/11/14

 「ユウさん、ちょっと、ちょっと」。休憩室の中をのぞきながら、あゆみさんが僕に手招きをする。「ちょっと見てください。ケンシロウさん、さっきからニヤニヤしながら、何かブツブツ言ってるんです。あれ、きっと、失恋のショックですよ」

 ケンシロウはまたふられたらしい。どうしてあゆみさんが知っているのかといえば、告白した相手があゆみさんの友人だったらしいのだ。

 「ケンシロウさーん、元気出してくださいよー」。満面の笑みで休憩室に入っていくあゆみさん。いや、こういうときはそっとしておくべきでは、と手を伸ばしそうになったが、ケンシロウはまったく違うことを考えていたようだった。

 「いや、この新しい帯状疱疹(帯状ヘルペス)の薬ですけど、アメ、ナメ、ビルですよ。アメ、ナメ、ビル」。ぽかーんとする僕らをよそに、アメナリーフ(一般名アメナメビル)のパンフレットを手にしたケンシロウが続ける。「アメナメって、もう、おかしくって。あと、ビルってなんだよ」

 いや、ビルは抗ウイルス薬のステムだ。まあ、アメナメの響きは幾分かのおかしさを含むかもしれないが、そんなに受けるほどのことでは…。

 「ショックで、ちょっとおかしいんですよ、きっと。そっとしといてあげましょう」と、あゆみさんが耳打ちする。僕は小さくうなずき、シンクで手を洗って、コーヒーをいれる準備を始めた。

 あゆみさんはケンシロウの向かいに座り、バックから小さな弁当と細長い水筒を取り出す。僕は冷蔵庫からコンビニで買ったサンドイッチを取り出し、あゆみさんの横に腰掛けた。10秒ほど沈黙があった。あゆみさんは耐えられなくなったのか、視線をケンシロウに向け、口を開いた。

 「このアメナリーフって、今までのヘルペスの薬とは全然違うんですよ」

 先日、メーカー主催のアメナリーフ発売記念講演会がホテルであったらしい。てっきりアメナリーフの説明をするのかと思いきや、そのホテルのスープカレーが最高で、スープカレーに何をトッピングして食べたらおいしいか、という趣旨の話になっていた。やれやれ。

 僕は席を立ち、コーヒーを注ぎ、その香りを確かめる。一口含み、席に戻ると、話題はまたアメナリーフに戻っていた。

 「まあ、でも、もうすぐファムビルもジェネリックが出るらしいから。同じマルホでしょ? やっぱりジェネリック対策なんじゃないの?」ケンシロウは眉をひそめて言った。「薬価もかなりするんじゃない?」

 「1日薬価はファムビルと同じで、標準用量で1日2939.4円です。バルトレックスのジェネリックを使うと1316.4円か1132.8円ですから、確かに割高ですけど」。あゆみさんは自信ありげな表情で続ける。「アメナリーフの特徴は3つあります。まず1日1回でよくて、次に糞中排泄で腎機能に応じた用量調節が不要です。そして、新しい作用機序だから今までの薬とは交差耐性を示さないんです」
 
 「全然違うんだね。じゃあ構造式も全然違うんじゃない?」

 ケンシロウは最近購入したiPadを取り出す。あゆみさんも慌ててスマホで医薬品医療機器総合機構(PMDA)のページを呼び出している。

 そう、構造式は異なる。当然だろう。ゾビラックス(アシクロビル、ACV)、バルトレックス(バラシクロビル塩酸塩、VACV)、ファムビル(ファムシクロビル、FCV)がプリン骨格を有する核酸類似体であるのに対し、アメナリーフ(AMNV)は非核酸類似体なのだ。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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