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痔主グーさんの特別講義@ひのくにノ薬局

2017/02/20

 「ちーっス!」 薬局の裏口から現れたのはグーさんだ。今日も七三分けにツーブロック、そしてサングラスが決まっている。「おっ、ケンシロウ、元気か? ユウさんの代打だ。聞いてる?」

 ユウさんは無理がたたったのだろう。昨日の午後から急に発熱。インフルエンザではないらしいが、今日も動けないと連絡があった。あゆみさんは日本老年薬学会の研修会に参加するため東京に出張中。さすがに1人ではつらいだろうと、助っ人としてグーさんを手配してくれたのだった。

 グーさんはオレの熊薬サッカー部の先輩で、31歳。たった3つ上なのだが、グーさんは4年制卒なので、だいぶ上の先輩のように感じる。ユウさんとグーさんは、ともにポジションがフォワード、しかも同郷で仲が良い。まあ、2人がつるむといつもイケイケだ。

 それにしても今の時代、薬剤師の助っ人って急に見つかるもんじゃないけれど、なにせグーさんの本業は薬剤師ではない。本業はDJで、“DJ Guu”といえばその業界では有名らしく、熊本四天王とも呼ばれているらしい。人生は人それぞれだから異論はないけれど、なかなかどうして、薬剤師としても超優秀なのだ。何度か一緒にやっているから分かる。ユウさんいわく、「グーが本気出したらヤバイ」そうだ。

 「ケンシロウ、これ時間ある時に用意しといて」。グーさんから処方箋を受け取る。グーさん自身の処方箋だ。グーさんのサングラスはいつの間にか真面目モードの黒縁メガネに変わっていた。「ギリギリ今日までなんよね。さすがに強ポスはどこでもあるっしょ」

 強力ポステリザン軟膏。在庫はあるし、何度か投薬したこともある。ただ、という疾患や薬について相談を受けた経験はほとんどない。患者さんもあまり話したがらないし……。って、グーさん、痔なのか。いい機会だから、ちょっと聞いてみようかな。

 「お前、ユウさんと何年一緒に働いてんの?」 グーさんは用意していた新しい白衣を棚に戻し、ユウさんの白衣をハンガーから外している。「へぇぇ、ユウさんも丸くなったんだな。昔は怖かったんだぞ」。そう、グーさんが駆け出しのDJだった頃は、ユウさんと2人で薬局を回していたらしい(注:薬局でDJをしていたわけではない)。

 「どれどれ、在庫は変わりないかな」。グーさんは白衣を手にしたまま、調剤室の外用棚と冷蔵庫を確認している。「強ポスとネリプロクトは坐剤と軟膏、プロクトセディルは坐剤のみ、ボラG(ボラザG)は坐剤と軟膏の両方。一般内科の門前にしてはある方だよな」

 「さて」

 グーさんは手にしていた白衣を肩に掛け、矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。「痔の種類分かる? いぼ痔は痔核、裂肛、痔瘻のどれのこと? 強ポスとネリプロクト、どっちが急性期向き? 強ポスに入っている大腸菌死菌浮遊液は何のためか知ってる?」

 うっ。裂肛は切れ痔だろうな、ジ(字)的に、なんちゃって。ということで、いぼ痔は痔核かな。強ポスって、強力って書いてあるけど漫然と出てることが多いから、頻度が少ないネリプロクトが急性期用かな。大腸菌死滅浮遊液!? そんなん入ってんだ。

 「ケンシロウよ……」。グーさんはあきれ顔で、本当かどうか分かりかねる話を続けた。「オレの親父の遺言をお前に教えよう。それは『痔だけは早く病院へ行け。痔をなめるな』だ。そして、オレが熊薬を出て、熊本に残ったのは、もちろんDJのこともあるが、熊本で痔といえば、あのT病院があるからなんだ。お前ももう少し年取って、そうだな、40歳くらいになったら、一度は詣でておけ」

 グーさんによると、グーさんの病名は血栓性内外痔核というらしい。いぼ痔の一種だ。オペ不要の経過観察のケースで、内服薬は下痢しがちなので整腸薬(処方箋の備考欄に『ミヤBMは残薬あり』と書かれていた)、外用薬は強ポスを処方され、生活面ではお酒を控えなさいと指導されているらしい(生活指導は残念ながら無効のようだ)。また、お尻を清潔に保つために自宅トイレにウォッシュレットを導入。ただし、使い過ぎは禁物で、洗浄は弱い水圧で10秒以内だそうだ。

<痔罹患時における日常生活の注意点>
・排便時にいきまない。お尻を清潔に保つ。便秘・下痢に注意。便意を感じた時に排便する。
・刺激物を控え、食物繊維の多い食べ物を多く取る。
・お酒は少量に、たばこは控え目に。
・腰を冷やさない。適度な運動を行う。毎日お風呂に入る。座りっ放しなど長時間同じ姿勢を避ける。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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