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ノルバデックス+ベタニス=薬効増強?減弱?

2016/05/18

 「CYPの相互作用って、阻害薬+基質薬で、基質薬の血中濃度が上がって、基質薬を過量服用したような副作用が出るじゃないですか」。あゆみさんが唐突に話し始める。「その意味でも、阻害薬だけじゃなくて、基質薬の、特に感じやすい基質薬の方も覚えておかないといけないと思うんですよね」

 そうだね、と僕はややうろたえながら応じる。“阻害薬の影響を受けやすい基質薬”を“感じやすい基質薬”とは、なんというか、斬新な表現だ。そういう基質薬を押さえておくことは重要だ。ただし、基質薬と阻害薬の組み合わせが必ず基質薬の過量投与時の副作用を引き起こすか、といえばそうとは限らない。何事にも例外というものはある。

 「そんなケースがあるんですか」。あゆみさんは興味津々だ。

 ちょうど来週のオーディットでみんなに周知しておこうと思っていた症例がある。あゆみさんには一足先に紹介しておくことにしよう。

 60歳女性Kさん。テレビで「40歳以上の7人に1人は過活動膀胱」というCMを見て、内科クリニックを受診。ベシケアOD錠5mg(一般名コハク酸ソリフェナシン)が処方された。他科受診は乳腺外科。乳癌のため、ノルバデックス錠20mgタモキシフェンクエン酸塩)とアルファカルシドールカプセル0.5μgを服用している。例えばこのKさんが、ベシケアの副作用の口渇が強く出て、「他の薬に変えてほしい」と訴えたとしよう。あゆみさんなら何を勧める?

 「ベシケアの抗コリン作用による口渇ですね。そうですね~。セオリー通りでいけば、抗コリン作用の弱いブラダロンとかベタニスとかですかね?」。あゆみさんはそう話しながら、僕が広げているKさんの薬歴をのぞき込む。「うん? 禁忌欄に“CYP2D6阻害薬”ってありますね…。ということは、ベタニスはダメなんですね」

 ベタニスミラベグロン)は中等度のCYP2D6阻害薬。そしてノルバデックスはCYP2D6の基質薬。この組み合わせの結果はどうなる?

 「えっと、どうなるんだろ?」。あゆみさんは例のごとく、スマホでノルバデックスの添付文書を呼び出す。「もしかして……ノルバデックスの効きが悪くなっちゃうとか?」

 その可能性が高い。添付文書には強力なCYP2D6阻害薬であるパロキセチン塩酸塩水和物(商品名パキシル他)とノルバデックスの併用により、乳癌による死亡リスクが増加したとの報告が記載されている(表1)。ベタニスは中等度のCYP2D6阻害薬なので、パキシルと同じ結果になるとは限らないが、効果の減弱は免れない。代替薬もある。添付文書に記載はなくとも、やはり併用は避けるべきだろう。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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