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SU薬の違いは「心」にある

2015/02/10

 おぉっ! 感嘆ともうめき声ともつかないケンシロウの声が静かな調剤室に響く。僕が一瞥すると、ケンシロウは顔を赤らめ、患者さんの待つ投薬カウンターへと足早に去って行った。「ケンシロウさん、どうしたんでしょうね?」と、あゆみさんもけげんそうだ。

 数分後、ケンシロウは服薬指導を終えて、調剤室に戻ってきた。午前受診の最後の患者さんだったようだ。「さっきはどうしたんですか?」と、早速あゆみさんが尋ねる。僕は今日こそ一人で静かな昼休みを過ごそうと思っていたが、雲行きは怪しい。

 「今投薬したKさん、隣町の内科でずっとグリベンクラミドを処方されていたんです。でも、前回来局した時、『たまに気が遠くなるんだよね』っていう話が出て。俺、マジでギョッとして、すぐに疑義照会してSU薬の変更を提案したんですけど、あまり面識ないドクターじゃないですか。『次回、変更しておくから』って言われて、俺びびっちゃってそれ以上強くは言えなくて……Kさんに食事のこととかメッチャ指導したんですけど、ずっと気になってて。で、今日、処方箋を見たら、グリメピリドに変更になってて。あぁ良かったーと思って、それで声出ちゃいました」。

 僕はケンシロウの話の内容よりも、耳障りな“若者言葉”の方が気になって仕方なかった。気分転換に弁当を買いに外に出ようと腰を上げると、目の前にはあゆみさんが立ちはだかっていた。「そういえば、グリベンクラミドって、糖尿病の専門のドクターはほとんど使いませんよね。やっぱり低血糖が多いからですか?」。

 僕は弁当を買いに行くのをあきらめ、あゆみさんの質問に答えることにした。今週、休憩室にストックしてあるバウムクーヘンを昼ごはんに食べたのは、これで4日目だ。

 まず、糖尿病治療薬による重症低血糖の大部分は、インスリンではなく、スルホニルウレア(SU)薬が原因だ。そして、グリベンクラミド(商品名オイグルコン、ダオニール他)での報告数が多い。過量投与や、腎機能低下例へのグリベンクラミドの使用は避けたいところだ。さらに、低血糖は反跳性高血糖を引き起こし、血糖振幅を大きくする。それは動脈硬化を促進するリスクにもなる。

 だが、専門医がグリベンクラミドを避ける理由はそれだけではない。グリベンクラミド投与群は、グリクラジド(グリミクロン他)やグリメピリド(アマリール他)と比較して心血管死が多いことが報告されている(Diabetes Metab Res Rev.2006;22:477-82.)。グリベンクラミドは、心筋の虚血プレコンディショニングを抑制する、KATPチャネル遮断剤なのだ。

 「プレナントカって、何ですか? 聞いたこともないです」。そう言いながら、あゆみさんは調剤室に走り、グリベンクラミドの添付文書を広げて持ってくる。「それらしいことの記載はないですね~。ケンシロウさんは知っているんですよね。ズルいですよ、私にも教えてください」。ケンシロウは、それまで僕とあゆみさんのやり取りをうなずきながら聞いていたが、自分に水が向けられると、静かに首を横に振り投薬カウンターへと去って行った。あらかた詳細をはっきり説明する自信がないのだろう。

 では、まず基本的なSU薬の薬理作用から見ていこう。

 SU薬は、膵β細胞のATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)を閉鎖する。すると、膵細胞膜は脱分極を引き起こし、電位依存性Ca2+チャネルを開いて細胞内にCa2+を流入させる。これが引き金となって、インスリンが膵細胞外へ放出される(図1)。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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