DI Onlineのロゴ画像

どうする?自力歩行できない高齢者へのタミフル投与量

2015/01/27

 「ユウさん、どこ行ってたんですか~! 今さっき、Qちゃん先生から電話がありましたよ」。薬局の裏口から休憩室に入ると、あゆみさんが薬歴簿を片手に駆け寄ってきた。

 僕はコンビニ弁当の入ったビニール袋を持った右手を挙げて、返事に代えた。“Qちゃん先生”とは、近隣の病院にバイトに来ている、僕と同級生のドクターだ。僕がQちゃんと呼んでいると、薬局のスタッフもQちゃん先生と呼ぶようになってしまった。ところで、Qちゃん先生の用件は何だったのだろう?

 「Tさんがインフルエンザにかかってしまって。Qちゃん先生がイナビル(一般名ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)を勧めたらしいんですけど、『吸入薬は不器用だからできない、飲み薬にしてほしい』って。Tさん、頑固ですからね。それでタミフル(オセルタミビルリン酸塩)の処方を切ったそうです。もうすぐいらっしゃると思うんですけど」

 Tさんは小柄でお茶目な93歳のご婦人。足が悪く、いつも電動車いすを使っている。これがどうして、なかなかの頑固者だ。吸入薬の処方が来ていても、きっと指導が大変だったろうな。そんなことを考えながら、あゆみさんの話の続きを聞いていた。

 「Qちゃん先生の話じゃ、腎機能は正常らしいんです。ただご高齢で、おうちではほとんど動かないというじゃないですか。さすがに先生も心配になったみたいで、『一応、タミフルを2カプセル・分2で出しておくけど、用量は調整しておいて』ですって。先生は今から胃カメラに入っちゃうから、事後報告でいいそうですよ」

 Qちゃんらしいご要望。ならば期待に応えないといけない。僕はやや冷めたドリップコーヒーを電子レンジで温め直しながら、あゆみさんにTさんの検査値を尋ねた。

 「ちゃんと教えてもらいましたよ。直近の血清クレアチニン値(SCr)は0.6mg/dLです。確かに93歳にしては良いですよね」

 なるほど。93歳にしては良すぎるからこそ、Qちゃんも心配になって電話をしてきたのだろう。

 「体重は、半年前くらいのデータですけど50kgです。CG式で計算してみますね」。あゆみさんは即座にスマホのアプリにデータを入力する。「クレアチニンクリアランス(CCr)の計算は……SCr0.6、93歳、女性、体重50kgで、ポチっと。46.24! 全然大丈夫ですね」。

 【Cockcroft-Gaultの式(CG式)】
 ……年齢、体重(kg)、SCr(mg/dL)からCCr(mL/分)を算出する。
  ・男性:CCr=(140-年齢)×体重/(72×SCr)
  ・女性:CCr= 0.85×(140-年齢)×体重/(72×SCr)

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

この記事を読んでいる人におすすめ