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メトグルコへのありがちな誤解と真の実力

2014/11/11

 僕とあゆみさんは、お昼の休憩時間をいつものように過ごしていた。僕は最近お気に入りの堀江敏幸の文庫本を手にし、あゆみさんは食後のスイーツを楽しんでいた。

 「来月の勉強会も糖尿病薬でいきたいんですけど、どの薬で行きます?」とケンシロウが入ってきた。彼は十中八九、ノックをしない。「あっ、SGLT2以外でお願いします。正直もうおなかいっぱいですから」

 僕らの薬局では月に一度、第1月曜日の業務終了後の夜に、MRさんに製品説明会をしてもらっている。今年度は糖尿病薬を中心に、ということになっていたのだが、ここ数回はSGLT2阻害薬の説明会が続き、確かにちょっとうんざりしていたところだった。

 「はい! 私、メトグルコを聞いてみたいんですけど」と、あゆみさんがフォークを持ったまま手を挙げる。「ケンシロウさんやユウさんは、メルビンの時代からじゃないですかぁ。私はもうメトグルコでしたから」

 さもズルいと言わんばかりのあゆみさんの表情に吹き出しそうになったが、良いかもしれない。僕が糖尿病薬の中で一番使われてほしいと思っている薬こそがメトグルコ(一般名メトホルミン塩酸塩)だからだ。

 「じゃあ、メトグルコにしましょうか。ビグアナイドの説明会って、実は俺も今まで聞いたことがなかったんですよね~」。ケンシロウは休憩室の入り口に掛けてあるカレンダーに、説明会の予定を早速書き込む。しかも極太の黒マジックで。まだ、MRさんの予定も確認してないだろうに……。

 「ありがとうございま~す」と、あゆみさんは満足気だ。「だってユウさん、メトグルコの服薬指導の時は力入ってますもん。そういえば先月だったかな、ユウさんファンのYさん、『頑張ってメトグルコ続けてたら、下痢もなくなって、HbA1cも下がってきた』って喜んでいましたよ。でも6錠も飲むの、大変ですよね」

 「うちは250mg錠しか置いていませんけど、去年8月に500mg錠も発売されているみたいだから、製剤見本も持ってきてもらいましょう。質問とかあったら、ホワイトボードに書いておいてください。MRさんにあらかじめ伝えておきますから。あっ、噂をすればYさんのご来局ですよ。今日はこのケンシロウさんで我慢してもらいましょうか。では休憩中、失礼しました」。ケンシロウは早口でそう言うと、調剤室の方へ行ってしまった。

 「6錠も飲むの、大変ですよね!」。あゆみさんが膨れている。これはマズイ。僕はコーヒーを一口飲み、思案した結果、質問で切り返すことにした。メトグルコの効果について、あゆみさんはどんなイメージを持っているのか、と。

 「効果って、強さのことですか? 強さなら、まずSU薬、そしてグリニド。それからDPP-4阻害薬、次にメトグルコとアクトスかな? メトグルコはインスリン抵抗性改善薬だからマイルドな印象です」

 あゆみさんは、「効果」という言葉から、「強さ」→「HbA1cの低下度」と連想したようだ。だが、あゆみさんの「強さ」の印象は、HbA1c低下作用よりも低血糖リスクの大きさに引っ張られている。実は、メトグルコのHbA1c低下作用はSU薬と並んで「強い」のだ(表1)。1500mg単剤でHbA1cを1.2%、最大用量の2250mgでは1.8%も下げるといわれている。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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