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アスピリンジレンマは存在しない!?

2014/10/27

 西洋医学はいつもパラダイムシフトで、いつも曲がり角。ガイドラインなんて、その最たるものだろう。だからこそ医療者としての不断の努力が必要なのだが、大学で習ったばかりのことが、歴史ある薬の知識が、間違ったものに変わってしまっているなんて、まさか夢にも思わないだろう。臨床の現場において、アスピリンジレンマをどう理解し、どのように扱えばよいのか?

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 「あっ、そういえば、ユウさんのファンのAさんが、昨日、頭痛薬を買いに来ましたよ」。あゆみさんは電子レンジから温めたお弁当を取り出して、僕の向かい側に腰掛ける。「ユウさんがいないから、がっかりしてましたよ。代わりに私が選んでおきました」

 Aさんが頭痛とは珍しい。狭心症でバファリン配合錠A81(一般名アスピリン・ダイアルミネート)を服用中のAさんは、長らくバファリンを「バーファリン」と呼び、「ワーファリン」と勘違いして納豆をずっと我慢していた強面のおじいちゃん。その誤解を解いてあげただけで、僕はすっかり気に入られてしまっていた。

 「Aさんはバファリンを飲んでますからね~。アセトアミノフェン製剤にしておきましたから、安心してください」

 さすが、あゆみさん。Aさんはああ見えて胃が弱い。ナイスな選択だ。

 「Aさんもバファリン飲んでいるのに、バファリンってまずいかな~って的を射たことを言ってましたよ。アスピリンジレンマを知っているわけはないとは思いますけど……。まさか、ユウさん、そんなことまで教えてないですよね?」

 アスピリンジレンマ。懐かしい言葉が出てきた。まさかAさんにそんなことを言うわけが……。ちょっと待て、あゆみさんはアスピリンジレンマをどう捉えているのだろう?

 「アスピリンジレンマですか? ユウさんの時代は大学の授業で習わなかったんですか? 私は最近まで学生でしたからね。といっても6年も大学行きましたから、もういい歳なんですけど。あれですよ」。あゆみさんはそう言いながら、箸を動かす右手を休めることなく、左手で器用にスマホを操作し始めた。僕はというと、なぜ、そこで年齢の話が出るのか分からずにただ身構えていた。この手の話には至る所に落とし穴があるものなのだ。幸い、今回は何事もなかったかのように、あゆみさんは話を続けてくれた。

「低用量のアスピリンなら抗血小板作用があるけど、高用量のアスピリンだと鎮痛作用だけで、抗血小板作用は発揮しない。有名ですよ!? ほらウィキペディアにも載ってますよ」とあゆみさんは操作していたスマホを僕に手渡した。

 アスピリン・ジレンマとは、アスピリンの投与量により血栓形成抑制効果が減弱されたり(少量)増強されたり(多量)する現象。同一薬剤が投与量によって、全く逆の作用がみられる。
 アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)-1および2を不可逆的に阻害し、この酵素によってアラキドン酸から生成されるプロスタグランジン(prostaglandin:PG)G2やPGH2、およびその下流の生成物質(この一連の反応をアラキドン酸カスケードと呼ぶ)の産生を抑制する。アラキドン酸カスケードの最終産物のうち、主に血管内皮細胞において生成されるPGI2は血小板凝集を抑制し、また血小板内において生成されるトロンボキサン(thromboxane:TX)A2は血小板凝集を促進する作用を持つ。
 アスピリンはCOXを不可逆的に阻害するため、低用量でもTXA2を著しく減少させるが(∵血小板には核がなく、酵素を新しく合成できないため)、PGI2は低用量のアスピリンならば十分に代償される(∵血管内皮細胞が新たなCOXを合成するため)。このため低用量(成人で81~100mg/day程度)のアスピリンはPGI2/TXA2比を上昇させ、血栓・塞栓症に対して予防的に働く。しかし大量投与ではPGI2の代償が追いつかず、血小板凝集の抑制作用が減弱される。(ウィキペディアより引用)

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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