DI Onlineのロゴ画像

NSAIDsの肝腎な「肝」の話

2014/10/07

 汎用薬が十分に理解されているかといえば、必ずしもそうとは限らない。例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。NSAIDsの禁忌「重篤な肝障害」とは? なぜ禁忌なのか? そして、それが“守られていない”のはなぜなのか――。

 「今日、Lさんが内科の定期のお薬を取りにいらしたんですけど、気付きました? 顔がぱんぱんにむくんでしまってて、かわいそうでした……」。患者の波が途切れた瞬間、あゆみさんがやや興奮気味で駆け寄ってきた。「足もぱんぱんで。整形からのセレコックス錠100mgを2カケ(分2)で5日間飲んだらしいんです。Lさん、肝硬変で腹水までありますからね。セレコックスは重篤な肝障害には禁忌なのに……」。

 Lさんは、内科で肝硬変の治療中。薬歴の表紙には「肝シール」を貼り、注意して薬のモニタリングを行うようにしている。だから、よく知っている。そして、Lさんは昔から頭痛持ちで、ロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム水和物)を愛用していたはずだが。

 「もちろん、その点は確認しました」とあゆみさんは続ける。「なんでも、先週末にお孫さんの運動会でリレーに参加したら、腰を痛めてしまったとかで、それで隣町の整形外科を初めて受診したそうです。ほら、あの院内処方のクリニック」。

 なるほど、それでセレコックス(セレコキシブ)が処方されたわけか。目に入れても痛くないほどお孫さんを溺愛しているイクジイのLさん。良いところを見せようと、普段運動もしていないのに無理をしてしまった姿が目に浮かんだ。いくら他人が「運動してください」と口をすっぱくして言っても、本人を動かすのはやはり、本人の意思以外の何物でもないと痛感する。

 そんな僕の思惟などおかまいなしに、あゆみさんは続ける。「整形のドクターから、手持ちのロキソニンは飲まないように言われていたらしく、ロキソニンとは併用していないそうです。今日診察した内科のドクターからは、『セレコックスはやめてロキソニンにしておきなさい』って言われたって。そりゃそうですよね。セレコックスは禁忌ですもん」。

 あゆみさんは気付いていないが、実は彼女は小さな自己矛盾に陥っている。百聞は一見に如かず。僕はロキソニンの添付文書を取り出し、あゆみさんに手渡した。

 「あれっ。ロキソニンも重篤な肝障害に禁忌になってる……」

 そう。NSAIDsの禁忌にはもれなく「重篤な肝障害のある患者」の記載があるのだ。

 「でも、おかしいですよ。セレコックスの添付文書には、Child-Pughとかの記載があったし、だからLさんには投与量が少なく……なってないし。っていうか、 禁忌だから量は関係ないのか。あれ、わけが分からなくなってきました……」

 あゆみさんが混乱するのも無理はない。でも、もう答えは出ているようなもの。だからこそ、分からなくなったともいえる。ポイントは、NSAIDsが肝消失型だからといって、肝臓に負担を掛けるわけではない、ということだ。

 一つずつ見ていこう。

 まずは、ロキソニンの禁忌である「重篤な肝障害のある患者(副作用として肝障害が報告されており、悪化するおそれがある)」の理由について。これは、「劇症肝炎などの重篤な肝臓の副作用が起こったときに、もともと重篤な肝障害を有していると致死的なことになってしまうから」なのだ。Lさんのように、ロキソニンをずっと飲み続けているような場合、この禁忌は当てはまらない。なぜなら、ロキソニンによる劇症肝炎などの肝障害の機序はアレルギー性であり、特に注意すべきモニタリング・ピリオドは投与直後~2カ月の間だからだ

※厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:薬物性肝障害」によると、アスピリン(アセチルサリチル酸)は中毒性の肝障害、ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)は代謝性特異体質による肝障害であり、全てのNSAIDsの肝障害がアレルギー性というわけではない。また、厳密にはNSAIDsではないが、アセトアミノフェンは中毒性肝障害を引き起こす薬物として有名だ。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

この記事を読んでいる人におすすめ