DI Onlineのロゴ画像

「喘息患者の本態性振戦に適したβ遮断薬はどれですか?」
【8/25訂正】

2014/08/20

 アマリールとアルマール。販売名類似による薬の取り間違えの典型例だ。頭では分かっていても、書き間違えてしまうことがあるらしい。僕も実際、この間違いの処方箋を受けたことがある。しかしそれは、過去の話。現在、この問題は大日本住友製薬の“英断”によって解決に至っている。今回はそのアルマール、いや、アロチノロール塩酸塩の話。

 「アロチノロールって、ほぼ100パーセント、本態性振戦への処方ですよね」。独り言なのか、それとも意見を求めているのかは判然としないが、とにかくあゆみさんは今日もご機嫌だ。日も傾きかけているというのに、始業の挨拶並みに弾んだ声で話し掛けてくる。

 確かにアロチノロールは日本で唯一、本態性振戦に対する保険適用を有しており、その有効性の面からも、本態性振戦での処方頻度が高い。なお、アロチノロールはαβ遮断薬だが、α遮断の方は抗振戦作用には関係がない。

 「それに比べて、メインテート(一般名ビソプロロールフマル酸塩)の処方意図は分かりにくいですよね」。そんなことはないだろう!とツッコミを入れたくなるところをぐっとこらえる。今日はこれから、新薬の発売記念講演会が控えている。夕方は道も混むから、できれば早めに薬局を出たい。

 「でも、本態性振戦の患者さんで、もし喘息があったりしたら、アロチノロールは使えないから、β1選択性のメインテートとかで行くしかないですよね?」

 僕は薬歴を書く手を止め、思わずあゆみさんを視野に入れてしまう。そして、講演会のセッション1をあきらめたのだった。

 「……で、いいんですよね?」。僕が黙っているのを見て、あゆみさんの笑顔が少し曇る。残念ながら、そうではない。

 本態性振戦の震えの原因としては、脊髄細胞の異常興奮(中枢系)と骨格筋のβ2受容体刺激(末梢系)の2つの機序が考えられている(図1)。この病態機序さえ理解しておけば、アロチノロールの代替薬としてβ1選択性のメインテートでは力不足であることは容易に想像が付く。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

この記事を読んでいる人におすすめ