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「アーチストにはどうして1日1回と1日2回の用法があるの?」

2014/08/08

 夏が来た。青い空に白い雲、そして照り付ける太陽。これだけで僕には十分なのだが、世間の関心は夏の風物詩・甲子園予選大会にあるらしい。野球にさっぱり興味のない僕には、単なる高校生の部活動、青春の一コマにすぎないのだが、町の薬局で働いていると、その影響力の大きさを知ることになる。田舎ほど、きっと顕著なのだろう。地区予選だというのに、地元の高校が試合に出ている時間帯は薬局は閑散としており、ごくわずかな来局患者も、薬を受け取った後も帰る気配がなく、クーラーの効いた薬局内でテレビにくぎ付けになっていた。

 こういう時は、黙々と作業をするのが当薬局のお決まりのパターン。そして、ソクラテスの亡霊が現れるのもこういう時なのだ。

 あゆみさんが、アーチスト(一般名カルベジロール)の添付文書を広げてフリーズしていた。僕の視線を感じたらしく、こちらを見るなり、案の定、早口で話し始めた。

「アーチストは、慢性心不全の場合はなんで1日2回になるのかなーと思って、ちょっと調べていたんですよ。高血圧とか狭心症だと1日1回でいいじゃないですか。で、アーチストの半減期を見てみたら、5~10mgくらいだと4時間もないんですよ。これじゃあ、1日1回でも2回でも安定しないですよね?」

 薬物動態学(pharmacokinetics)は、目に見えない体内での薬の挙動を血中濃度で推論しようとする学問ではあるが、もちろん全ての薬において、血中濃度で薬の挙動が把握できるわけではない。薬のキャラクターを無視して、薬物動態を論じることはできないのだ。

 あゆみさんは僕の言葉を待つことなく、次々と他のβ遮断薬の添付文書を引っ張り出してきて言葉を継いだ。

「ほら、やっぱり。メインテートの半減期は8.6時間だし、テノーミンも10.8時間ですよ。あの理論でも、この2剤は十分定常状態になりますよ」

 「あの理論」とは、「Ritschel理論」のことだろう。(参考:「リバロは2mg隔日投与より、1mg連日投与の方が良くないですか?」(2014年4月15日)

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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