患者の波が途切れた晴天の午後、僕はあゆみさんと並んで、たまった薬歴をせっせと片付けていた。どうやら今日は残業しなくても済みそうだ。だが、あゆみさんは一つの薬歴につまずいている模様。彼女はシベノール錠(一般名シベンゾリンコハク酸塩)の添付文書を取り出してきて、「やっぱり……」とため息をつき、僕の方に向き直ってこう言った。
「シベノールって、1日300mgから始めることになっていますよね。でも、うちで出るシベノールの初期投与量は1日100~200mgがほとんどで、300mgから始める人って、まずいないじゃないですか」
確かに、シベノールの用法・用量は、「通常、成人にはシベンゾリンコハク酸塩として、1日300mgより投与をはじめ、効果が不十分な場合には450mgまで増量し、1日3回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する」となっている。中でも、腎機能低下者や高齢者(特に低体重)に関しては、ただし書きが付いている。
1.本剤は下記のとおり腎機能障害患者では血中濃度が持続するので、血清クレアチニン値(Scr)を指標とした障害の程度に応じ投与量を減じるなど用法・用量の調整をすること。なお、透析を必要とする腎不全患者には投与しないこと。(本剤は透析ではほとんど除去されない。)
・軽度~中等度障害例(Scr:1.3~2.9mg/dL):消失半減期が腎機能正常例に比し約1.5倍に延長する。
・高度障害例(Scr:3.0mg/dL以上):消失半減期が腎機能正常例に比し約3倍に延長する。
2.高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、また、体重が少ない傾向があるなど副作用が発現しやすいので、少量(例えば1日150mg)から開始するなど投与量に十分に注意し、慎重に観察しながら投与すること。