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「肝機能って、ASTやALTの値を見れば分かるんですよね?」

2014/02/18

 今回は肝機能について、いや、「本当の肝機能」についての話をしよう。

 勉強熱心な新人薬剤師のあゆみさん。バックヤードでコンビニ弁当をかき込んでいた僕の姿を見つけるなり、勢い込んで(いつものことだ)こう尋ねてきた。

「この間、どんぐり工房の菅野彊先生の薬物動態学の講演を聴いてきました。そこで、上昇型非線形薬物として、ミカルディスが紹介されていたんです。ウチでもよく出るじゃないですか。肝障害のある患者さんには、1日の最大投与量が40mgまでなんですって」

 なるほど、よく勉強している。確かにミカルディス(一般名テルミサルタン)は、上昇型非線形薬物だ。それも、40mgまでは線形型薬物で、それ以上になると非線形を示すようになる。だから、ミカルディスを肝障害のある患者に投与する場合は、1日最大投与量が40mgと決まっている。

 あゆみさんは、僕の思考などおかまいなしに続ける。「それで、さっき投薬したWさんがミカルディスを60mg服用していて、特に今まで肝臓についての記録はなかったんですけど、今日からプロへパールが追加になっていて。肝機能をおうかがいしたら、ASTとALTが50くらいだったのですが、どのくらいから気を付ければいいんでしょうか?」。

 このあゆみさんの質問には、一つの小さな誤解が含まれていることにお気づきだろうか。その誤解とは、「肝機能をおうかがいしたら、ASTとALTが50くらいだった」というところにある。

 ASTとALTは、それぞれ「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」と「アラニンアミノトランスフェラーゼ」の欧文略号。簡単に言うと、肝臓が障害を受けた時に血中に漏れ出てくる酵素のことだ。以前はGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)、GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と呼ばれていたが、それぞれAST、ALTと同じ酵素を指す。

 薬の副作用で肝臓に負担が掛かっている時には、これらの値で肝臓のダメージの度合いを判断する。施設によって多少異なるが、ASTもALTもおおよそ40IU/L以下が正常範囲の目安だ。

 でもこれは、本当の意味での肝機能ではない。ASTやALTでは肝臓の弱り具合を推し量ることはできても、肝臓の働きそのものを測っているわけではないからだ。例えば、肝硬変が進行して、肝機能が落ちてしまうと、ASTやALTはそれほど上昇しなくなる。

 では一体、肝機能は何を見て判断すればいいのか? その答えは、「血小板」「アルブミン」「コレステロール」の値だ。これらの合成能こそ、本当の肝機能なのだ(厳密には、血小板は肝臓で作られるわけではない。肝硬変などで肝血流が悪化すると、脾臓で血小板が破壊される量が増えるために、血小板が減少する)。

 肝機能が低下してくると、まず血小板が減り始め、続いてアルブミン、コレステロールが減っていく。だから僕は、「血小板が減少してきたら、肝機能は低下している」と考えるようにしている。血小板数が15~20万あれば肝機能は悪くない。肝硬変で10万、肝癌で6~8万くらいだろうか。あゆみさんに確認すると、件のWさんの血小板数は18万と正常だったようだ。

 「じゃあ血小板が15万以下の患者さんは、全員ミカルディスを減量した方がいいんですね。ありがとうございます!」。あゆみさんはそう言い放ってバックヤードを飛び出そうとする。愛嬌と鱗粉を振りまく妖精のような身のこなしに、思わず手を振って見送りそうになったが、ちょいと待ってくれ。僕の話はまだ終わっていない。

 確かに血小板数が15万を下ると肝機能の低下が考えられる。しかし、あくまでも個人的な見解ではあるが、肝臓は予備能力が高いので、経過観察で行くことが多い。僕の中の疑義照会のラインは、肝硬変などの病名がはっきり分からない場合には、肝硬変に準じる血小板数10万以下と考えている。

 話を元に戻そう。ミカルディスの添付文書の「薬物動態」のうち、「肝障害患者への投与」の欄には、こう書いてある。

肝障害患者への投与
肝障害男性患者12例(Child-Pugh分類A[軽症]:8例、B[中等症]:4例)にテルミサルタン20mg及び120mg(※)を経口投与したとき、健康成人に比較しCmaxは4.5倍及び3倍高く、AUCは2.5倍及び2.7倍高かった。(外国人のデータ)
(※)肝障害のある患者に投与する場合の最大投与量は1日40mgである。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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