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帝王切開後のパルタンがオーダーできないワケ

2020/06/08

 ベサコリン散を調剤していたときに、胸ポケットに入れている院内PHSが鳴った。薬剤師の高城亜紀は右手にスパーテルと薬瓶を持ち替えて、左手でPHSを操作した。

「アッキー、ちょっと聞きたいんだけど、今大丈夫?」
「ええー……。内容によるけどいいよ」

 電話の相手は同期入職の産婦人科医、佐々木茉莉だった。亜紀はPHSを顔で挟んで会話を続けつつ、手元では賦形に使う乳糖を量り取っている。

「青山さんって、昨日カイザー(帝王切開)した人なんだけど、パルタンが入力できないんだよね」

「えっ、何で?」
「そう、何で?」

 お互いに同じようなセリフを発してから、うーん、と亜紀は唸った。まず、状況が分からない。

「ちょっと待ってね。青山さんだよね。昨日だったんだ」

「うん。青山さんはまだ先の予定だったんだけど、夜中に呼ばれてねー。それでなくても昨日カイザー多かったもんでしんどくてさぁー」

「それはお疲れ」

「何か疲れに効く薬ないんー?」

「ないよ。ビタメジンと十全大補でも飲んでみたら」

 話しながらもゴリゴリと賦形していたベサコリン散を分包機にかけると、亜紀は電子カルテ端末で患者を呼び出した。

「それで、パルタンの錠剤?注射?」
「注射の方」

 入力してみると、確かにエラーが出た。「禁忌薬が入力されています」と赤字で表示されている。だが、ざっと処方を確認しても、帝王切開のときにいつも使う薬が入力されているだけで、パルタンと禁忌になりそうな薬は見当たらない。

「ほんとだ……。ちょっと調べてみないと分かんないけど。急ぐ?」
「ううん、大丈夫。もう使っちゃった薬を後から入力しているだけだから。分かったら教えてね」
「了解でーす」

 電話を切って、分包機が吐き出していたベサコリン散をまとめて監査台に渡すと、亜紀は再び電子カルテ端末に向かった。

著者プロフィール

とみの ひろみつ氏 東京理科大学薬学部卒。天然物化学専門だったが、研究に挫折して薬剤師として薬局に勤務。その後、薬局勤務を続けながら、ウェブクリエーター、ライターなどとして活動。2004年より千葉県の総合病院薬剤部に勤務し、現在は関連病院に赴任。執筆活動も継続中。趣味は音楽ゲームとプロ野球観戦。

連載の紹介

富野浩充の「当直室からこんばんは」
病院薬剤師として勤務する富野氏が、クスッとできて、時にホロリとし、たまにムカッとしてしまう病院業務の日常を赤裸々に綴ります。薬のことにはほとんど触れない個人のホームページはこちら登場人物の名前は全て架空のものです。内容は事実を元に再構成したフィクションです。

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