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リトドリンの持続注入で血管痛が起こるワケ

2018/11/24
富野 浩充

「今日の水野ゆかりさんの担当、誰ですか?」

 高城亜紀はナースステーションに戻ると、リーダー看護師を呼び止めた。

「んっと、今日はカナちゃんだね」
「えー、あたし? どうかした?」

 ノートパソコンに入力をしていた山下香奈子が、手を止めてこちらを向いた。30代半ばで、頼りになる中堅どころの助産師だ。産科病棟に配属されて1年ちょっとの亜紀なんかより、ずっと妊婦に詳しい。ちなみに独身で、ちょこちょこ彼氏が変わっているらしく、よく愚痴やのろけを亜紀にも話してくれる。

「水野さん、血管痛が出てきたから、点滴変えてもらおうかと思って」
「そうだねー。ここんとこ2日に1回、刺し替えてるからねえ」
「先生に言っときますね」
「ありがとー」

 水野さんは、切迫早産の診断で妊娠27週から管理入院となっている患者だ。当初はリトドリン塩酸塩錠5mgを1日4回で内服していたが、2週目から点滴に変わって、リトドリンを持続注入している。今日は妊娠30週2日で、リトドリンの速度は10日前に上げてから変わっていなかった。

 リトドリンは5%糖液に入れて投与することが多かったが、糖液を持続点滴していると血管痛が出る患者も多い。そればかりか、血管が詰まってしまう人もいて、そうなると数日に一度、点滴を刺し替えなくてはならなかった。

 水野さんも点滴の刺し痕が目立った。亜紀が血管痛について尋ねると、「刺し替えてもすぐ痛くなる」と話し、彼女の血管を触ると、ぼこぼこと隆起しているのが分かった。

「でも、みんなして、なんで血管が詰まっちゃうんだろ」
「そうですね……。5プロツッカー(5%糖液)も等張液だから、浸透圧はソリューゲン(リンゲル液)と変わらないはずなんですけど。違うところ、っていえば、リンゲル液は細胞外液だけを補充するけど、ツッカーだと細胞内と細胞外、両方に水が入るから、細胞が太っちゃうんでしょうか」

「亜紀ちゃんがなんか難しいこと言ってる」
「ええっと、こういうことで……」

著者プロフィール

とみの ひろみつ氏 東京理科大学薬学部卒。天然物化学専門だったが、研究に挫折して薬剤師として薬局に勤務。その後、薬局勤務を続けながら、ウェブクリエーター、ライターなどとして活動。2004年より千葉県の総合病院薬剤部に勤務し、現在は関連病院に赴任。執筆活動も継続中。趣味は音楽ゲームとプロ野球観戦。

連載の紹介

富野浩充の「当直室からこんばんは」
病院薬剤師として勤務する富野氏が、クスッとできて、時にホロリとし、たまにムカッとしてしまう病院業務の日常を赤裸々に綴ります。薬のことにはほとんど触れない個人のホームページはこちら登場人物の名前は全て架空のものです。内容は事実を元に再構成したフィクションです。

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