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ギネ病棟の午後は、放課後のように

2011/04/25

新生児。ギネ病棟ではベッドサイドに指導に行くと、赤ちゃんが隣にいるときがある。授乳中だったりして出直したりする。

 ギネ(産婦人科)病棟は、他の病棟と一味違う。なぜなら、そこにいる患者の半数以上は病気ではないからだ。看護師(助産師)も、他の病棟ほど切羽詰った感じで動いていない。たまに、ナースステーションと繋がっている分娩室から叫び声が聞こえてくるが、医師も助産師も淡々と自分の業務をこなしている。慣れたものだ。

「おはようございまーす」

 ナースステーションに入るときに、いつものように声をかけた。

「もう昼だけど」

 すぐさま、一番手前にいるクラークと、部屋の中央にいる今日のリーダーに突っ込まれた。

 病棟担当の薬剤師は、午前中から病棟と薬局を行き来して働いているが、例外的にギネ病棟は午後からの担当になっている。患者が健康なので、他病棟に比べ、あまり薬剤師の仕事がないのだ。その分午前中は外来を手伝え、ということだ。

 「あはは。ドラッグ時代のクセが抜けなくて」

 「薬局では、こんにちわって言わないの?」

 テプラで患者のネームプレートを作っていたクラークに聞かれた。まだ20代前半の女性だが、いつも帰るのは夜7時過ぎらしい。彼女がひとりで病棟患者の入退院処理を一手に引き受けている。

 「言ったことあるけど、気が抜けるからやめろって言われた」

 今日配る薬や薬歴をテーブルに置いて自分の場所を確保し、ひょい、ひょい、と明日の点滴を所定の場所にかけながら答える。

 以前勤めていたドラッグストアでは、朝からだろうが午後出勤だろうが、仕事入りの挨拶は「おはようございます」だった。たしかに、午後出勤だからといって「こんにちわ」と挨拶されるのは何か違う。かといって「お疲れさまです」と言われるのもどこかおかしい。「おはようございます」が落ち着くのだ。

 それはいいとして……。

 「いや、今日すごくない? 95年生まれが子供産んでるって」

 と言いながら、カルテと、そこに挟んであるアナムネを眺めた。看護師が聴取した、身長、体重や簡単な家族構成、生活習慣、病歴や服薬記録、アレルギーなどが書かれている。

 ギネ病棟では、これに加え出産の場合の、子供の性別、体重なども書かれている。その中で一番インパクトが強かったのは、外陰部の模式図に、ぴっ、と一筋の線が書かれていることだ。経膣分娩のときに、ここを切ったよ、という印だ。

著者プロフィール

とみの ひろみつ氏 東京理科大学薬学部卒。天然物化学専門だったが、研究に挫折して薬剤師として薬局に勤務。その後、薬局勤務を続けながら、ウェブクリエーター、ライターなどとして活動。2004年より千葉県の総合病院薬剤部に勤務し、現在は関連病院に赴任。執筆活動も継続中。趣味は音楽ゲームとプロ野球観戦。

連載の紹介

富野浩充の「当直室からこんばんは」
病院薬剤師として勤務する富野氏が、クスッとできて、時にホロリとし、たまにムカッとしてしまう病院業務の日常を赤裸々に綴ります。薬のことにはほとんど触れない個人のホームページはこちら登場人物の名前は全て架空のものです。内容は事実を元に再構成したフィクションです。

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