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バナナを食べ鉄剤シロップを飲んで口が真っ黒に

2014/11/27

 鉄欠乏性貧血は離乳期と思春期(女児)に起こり易い疾患です。一般的に、貧血の場合、「顔面蒼白」、「易疲労感」、「動悸」、「頭痛」、「食欲不振」などの症状があります。しかし、乳幼児の場合は、貧血の進行が遅く、症状も軽微です。運動量が少なく、自分で訴えることもないので、そのまま見過ごされています。そんなお子さんが熱発して、念のために血液検査をすると、貧血が見つかることがあります。

 鉄欠乏性貧血の場合によく処方されるのは、鉄剤です。特に、乳幼児ではシロップで飲みやすいという理由から、インクレミンシロップ5%(一般名溶性ピロリン酸第二鉄)が処方されます。インクレミンシロップの味を試された方は分ると思いますが、鉄くささがかなりマスクされて、飲みやすくなっています。とは言っても、良く味わうと生臭いような、鉄の味がしますが。

 さて、Gくん(1歳3カ月)も発熱がずっと続き、医師が念のため血液検査をしました。幸いなことに、白血球やCRPは正常値だったので、「単なる風邪でしょう」と判断されました。しかし、血液検査した際に、同時に測定されたヘモグロビン(Hb)値が低く、「鉄欠乏性貧血だね」と言われたそうです。やっと熱が下がり、数日経ったところで、インクレミンシロップが処方されました。

 お母さんは貧血と診断されたことで心配していたので、「乳幼児には貧血が珍しくない。今回の検査で見つかって良かった」と伝えました。また、インクレミンには消化器症状の副作用があることや、便が真っ黒になるが心配する必要はないことを説明しました。お母さんも「数カ月も飲むんですか……」と言いながらも、納得して帰って行かれました。

 ところが、2週間後、薬局に来られた時にお母さんから「バナナを食べた後にシロップを飲んだら、口の中が真っ黒になったけど、大丈夫でしょうか?」と聞かれました。そういう事象は聞いたことがないので、さっそく調べてみました。バナナには実は、タンニンが多量に含まれています。特に皮の部分に多く、皮をむいておくと徐々に黒くなるのはタンニン等のポリフェノールが酸化して高分子ポリフェノール色素に変化するためだそうです。また、青いバナナは渋柿やイナゴマメとともに三大渋み果実の一つで、その主成分はそれぞれタンニンと言われています。

 ウィキペディアによると、タンニンはポリフェノールの一種で、お茶や柿に等に多量に含まれ、渋みの原因となっています。タンニンは鉄イオンと結合し、錯体を作り黒色を呈します。今回、バナナを食べてインクレミンシロップを飲んだら口の中が黒くなった原因は、バナナのタンニンとインクレミンシロップの鉄が反応して、重合体を作ったものと考えられます。しかし、食物中のタンニンを調べた文献は少なく、唯一、ポリフェノールで比較した論文では、ワイン>緑茶>バナナの順だそうです。そこで、実際にバナナを買ってきて、バナナにインクレミンを振りかけて、実験してみました。振りかけた直後は変化がなかったのですが、10分くらいして徐々に黒いブツブツができてきました(図1)。おそらく、こういう変化が口の中で起こっていたものと推測されます。

著者プロフィール

松本康弘(ワタナベ薬局上宮永店〔大分県中津市〕)
まつもと やすひろ氏。1956年生まれ。熊本大学薬学部卒業後、大手製薬企業の研究所勤務を経て、2001年に株式会社ワタナベに転職。最初に配属された店舗で、小児の服薬指導の難しさや面白さに魅せられ、患者指導用のパンフレットの作成などを積極的に行うようになった。小児薬物療法認定薬剤師。

連載の紹介

松本康弘の「極める!小児の服薬指導」
小児科門前の薬局で、小児の服薬指導に日々奮闘する松本氏が、日常業務で感じたことや、子どもに薬を飲んでもらうための工夫の数々を紹介します。明日から使える具体的なノウハウ満載!学会で仕入れた、小児科診療の最新トピックスなども飛び込みで紹介します。

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