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薬剤師の存在意義が問われているのは日本だけじゃない?(2)
薬局でのプロフェッショナルサービスに異議あり

2015/05/01
佐藤厚

 カナダのバンクーバー郊外にある薬局で薬剤師をしている佐藤厚です。今回は、下記のタイトルで2015年1月23日にカナダ国営放送CBCで放送されたドキュメンタリーを取り上げて、カナダにおける薬剤師の存在意義を考えてみます。

Pharmacy Error: Dispensing Danger このドキュメンタリーは、前回紹介した調剤過誤と覆面調査のニュースに情報を補足してまとめられています。鍵となるのは、なぜ薬剤師はときとして相互作用を見落としたり、医師への疑義照会を怠ってしまうのかという点です。言わずもがな、これらの仕事ができなければ薬局に薬剤師がいる理由がありません。

 なお、このCBCのドキュメンタリーの動画は、Youtubeで見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=Ci5noQyQ3oM

 ドキュメンタリーには調剤事故の被害者の家族が登場し、事故を誘発したチェーン薬局を信用できないと怒りをこめて語ると同時に、事故の原因になりうる人員不足や長時間勤務など薬剤師の就労環境に懸念を示しています。薬剤師の就労環境については、CBCの調査部門であるCBCマーケットプレースが調査しました。

 続いて元大手チェーン薬局薬剤師が顔を隠してインタビューに応じ、めまぐるしいレースのように仕事を片付けていく薬局内部の様子を語り、また数値目標が薬剤師にプレッシャーを与えている可能性について言及。数値目標が設定される具体的な例として、処方箋枚数のほか、インフルエンザの予防接種や「MedCheck」を挙げています。

「MedCheck」とは、服用薬の数や疾患について一定の条件を満たす患者(またはその代理人)に対して、薬剤師が面談して服薬状態や副作用の有無などを確認し、患者の薬への理解を促し、健康に寄与することを狙って実施されているものです。

 本サイトでコラムを連載されているマイルバガナム恵美さんが2014年7月14日付の「日本とカナダの薬局見聞録」中でも紹介していますが、、オンタリオ州ではMedCheck、ブリティッシュコロンビア州(BC州)ではMedication Reviewといった具合に、カナダ全ての州で類似のサービスが提供されています(表1)。ここでは分かりやすいよう、「お薬点検サービス」(佐藤訳)と表記します。

 お薬点検サービスとは、 単なる情報提供のみならず、体系的に以下の7項目の薬物関連問題(Drug related problem;DRP)をチェックし、必要に応じて医師への疑義照会を行います。

1.不必要な薬物治療
2.薬物治療の必要性の可能性
3.無効な薬物治療
4.過少投与
5.過量投与
6.有害事象
7.ノンアドヒアランス

 お薬点検サービスは、レセコン上で作成・印刷される薬のリストに沿って進められますが、服用中止や医師の指示によるOTC薬の服用などがあれば、必要に応じてリストを編集していきます。そして最後に、患者さんは紙に印刷された最新版の自分の薬歴(正式名:Best Possible Medication History)を手にします。

 実はカナダの各州では州内全ての薬局を結ぶネットワークシステムが構築されていて(BC州の場合「ファーマネット」と言います)、これが薬剤師用の薬歴としての役目を果たしています。しかし、これは薬剤師用の情報としてレセコンに表示されるもので、お薬手帳のように患者が自分で手にできるものではありませんでした。それだけに、お薬点検サービスで渡される紙の薬歴は、高齢者や服用薬の多い方に非常に重宝されています。

 お薬点検サービスを実施すると政府から薬局に報酬が支払われ、患者負担はゼロです(表1)。薬剤師にとっては、 専門性を伴う薬の点検作業が報酬を伴う形で体系的に確立されたのは非常に喜ばしいことでした。ただし、お薬点検サービスの導入は、薬価差益の是正を目的として国を挙げてジェネリック医薬品の費用削減に取り組んだのと時期が重なり(注1)、お薬点検サービスは薬局経営を補填するものという見方もできます。

 新しい制度が始まったことで、薬剤師の仕事環境は急速かつ大きく変化しました。処方箋処理枚数を増やしても、これまでと同じような収入は得られず、同じボリュームの処方箋を処理しながら、お薬点検サービスに費やす時間をどんどん増やす必要が出てきました。知識と専門性を商売道具とする薬剤師にとって悪いアイデアではありませんが、このサービスはコミュニケーション能力や薬の数によって所要時間が大きく変動するため、経営者にとって頭痛の種です。

 例えば3種類の処方箋薬を服用する理解力のある50代の患者と、11種類の処方箋薬と3種類のサプリメントと2つのOTC薬を常用する80代後半の耳が遠く理解力の乏しい患者を比べると、後者の方がお薬点検サービスを受ける必要性が大きい半面、時間も長くかかります。同じ報酬に5分を掛けるか、15分以上を掛けるかは、現場の薬剤師の判断次第です。もしその薬局に一人の薬剤師しかいなければ、この15分間に薬を待つ人があふれるのは必至で、他の患者にも迷惑がかかります。

 薬局経営を考えると、お薬点検サービスの数をこなせば収益は増えますが、本当に必要としている患者に、質を伴ったサービスが提供されているのかは別の話です。もちろん、心ある薬剤師はたとえ長時間を要しても、必要性の高い患者さんを優先してサービスを提供していますが、一方で、業界での生き残りを考えなければならない経営者は、現場の薬剤師に対して明確な数値目標を設定し、その達成を要求してきます。その結果、薬剤師は大きなプレッシャーを感じながら仕事をし、調剤事故が起こってしまうことを今回の番組は指摘していました。

 お薬点検サービスは患者に利益があってこそ成り立つサービスであるにも関らず、数値目標ができることで、時間的プレッシャーとエラーの悪循環が生じている薬局があるのは、同じ薬剤師として非常に残念です。また患者負担は発生しないものの税金で行われるサービスの内容が、毎回紙切れ一枚を渡すだけのお粗末なものになってくると、メディアには糾弾されますし(注2)、何より患者の利益になりません。

 私もチェーン薬局に勤務していますが、これまで本社から数値目標が与えられたことはありません。普段、たとえ長い時間がかかっても、より必要性の認められる患者に対してレビューを行うようにしています。これは私が通常、他の薬剤師と仕事をしているからできることです。普通に患者と接している中で1日1人か2人くらいは必ずお薬点検サービスが役に立つと思われるケースがありますから、このような方にお薬点検サービスしませんか?と声を掛けるようにしています。患者側の時間の都合でサービスを断られることもありますが、それでは次回必ずお話しましょうと促します。このようなやり方では、薬局全体の経営効率が悪くなり、本社に大いに迷惑をかけていることでしょう。しかし、多くの薬を飲んでいるがゆえの相互作用や副作用、服薬上の問題点を発見・解決できれば、レビューは患者の健康状態の改善につながります。これこそ薬剤師としての本望です。

 上記の番組が放送されたあと、OTC薬か処方箋薬かに関わらず、より多くの来局者から相互作用や副作用についての質問を受けるようになりました。薬剤師を糾弾するような内容の報道を見たある患者は、私に一言かけてくれました。

「I don’t think it’s true. You guys are doing a good job.」
(相互作用や疑義紹介をしない薬剤師がいるだなんて、ウソだと思う。君たちはいつも頑張っている)

 薬局として生き残り、また国民の健康な生活を確保するという、2つの大きな命題を薬剤師は常に抱えています。しかしそこに生じるジレンマの解消につとめ、時代の波と共にやってくる様々な難局を高い倫理観を失わずに切り抜けるのは、国境を越えた薬剤師の使命であると感じます。

 以上、カナダの薬剤師関連の報道と、日本で2015年2月から報道されている薬歴未記載問題から、薬剤師のあるべき姿は何かを考え原稿をまとめました。大きなグローバライゼーションの中、海外の薬剤師のニュースと現状が何かの参考になれば幸いです。

表1 主要な州におけるお薬点検サービスのまとめ

連載の紹介

まいにち薬剤師
保険薬局や医療機関、大学、研究機関、製薬企業、医薬品卸などで働く薬剤師に、日々の業務や日常生活を通じて感じたこと、考えたことを、つれづれなるままに執筆いただくコーナーです。さまざまな薬剤師に、単回もしくは不定期に登場していただき、薬剤師の視点から話題を提供してもらいます。このコーナーへの寄稿を希望される方は、お問い合わせフォームから編集部にご連絡ください。

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