処方箋のファクスというのはいつも突然に入るものですね。その日も2枚のファクスが入りました。1枚は過去に来局歴のある9歳の子ども、そしてもう1枚は新患で、保険証番号や年齢などから推測するに、その子のお母さんと思われました。
ファクスを基に、早速調剤の準備に取り掛かります。9歳の子どもの薬歴には「先発品希望」と書かれていました。処方箋の「【般】アンブロキソール塩酸塩錠15mg 3錠」の記載に、引き出しをひっくり返して、辛うじて在庫していたムコソルバンを取り出します。
そしてお母さんの方の処方箋には、「【般】オロパタジン塩酸塩錠5mg 2錠」「【般】フルオロメトロン点眼液0.02% 5mL」と、2つの薬剤が一般名処方されていました。とはいえ、9歳の子どもの新患アンケートに「先発品希望」と書いたのは紛れもなくその子のお母さんですから、これらの薬剤についても先発品で準備すべきだろうと判断しました。
しかし、いずれの先発品も当薬局には在庫がありません。慌てて近隣の薬局に小分け依頼の電話をかけます。オロパタジンは、ジェネリックなら当薬局に在庫がありましたが、やはり近隣にも先発品のアレロック錠はありません。フルメトロン点眼液についても、最寄りの眼科がオドメール点眼液0.02%を「変更不可」で処方するので、こちらの在庫も確保できません。
そうこうしているうちにその親子が来局してしまいました。私はやむなく、「申し訳ありません、先発品を探しておりますが、いずれも在庫がありません。お薬を準備するのに少し時間をいただきたいのですが……」と説明したところ、そのお母さんの口から衝撃の一言が発せられました。
「あら、私のお薬は先発品でもジェネリックでも、何でもいいですよ。子どもの分についても、よく分からなかったので『先発品希望』にしておいただけなんです」
「テヘペロ」という吹き出しが、笑顔のお母さんの背後に見えたような気がして、一気に脱力しました。ですが、こちらもそこはプロ。極力表情には出さないよう努めます。すぐにオドメール点眼液の小分けに走り、オロパタジンは当薬局に在庫のあったオロパタジン塩酸塩錠5mg「日医工」を調剤します。無事にお薬をお渡しできましたが、親子が帰った後、どっと疲れが出ました(苦笑)。
読者の皆様の中にも、同じような経験をした方がいるかもしれません。実は「先発品希望」の患者さんには、
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著者プロフィール
熊谷信(薬剤師・ブロガー)
くまがい しん氏 信州大学経済学部を卒業後、自動車ディーラーの職に就くが、「自分で薬局を開きたい」との思いから、社会人入試を経て東邦大学薬学部へ入学。卒業後、くまがい薬局を開局したが、3年4カ月で廃業し、勤務薬剤師に。2014年4月、長野県諏訪市にららくま薬局を開局。

連載の紹介
熊谷信の「薬剤師的にどうでしょう」
ららくま薬局(長野県諏訪市)を開設し患者と向き合っている熊谷氏が、日々の業務やニュースから感じ取ったことを現場目線で書きつづります。本人のブログ「薬局のオモテとウラ」も好評連載中です。
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