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帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛に効く漢方(1)
帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛の考え方と漢方処方

2021/06/15

 帯状疱疹は、顔や体の片側の皮膚にピリピリ、チクチクとした痛みが起きた後、数日後に激痛を伴う赤い発疹がポツポツ現れ、水ぶくれとともに帯状に広がる疾患です。体の左右どちらか片側に現れるのが特徴です。顔、頭、胸、腹部、背中、腰や股間などに発症することが多いようです。

 免疫が低下している場合などは、慢性的に痛みが続く「帯状疱疹後神経痛」になります。

 もともと高齢者に多い皮膚疾患ですが、近年は広い世代で増加しているようです。

 帯状疱疹の原因は、水ぼうそう(水痘)と同じ水痘・帯状疱疹ウイルスです。小さい頃に水ぼうそうにかかるなどして、日本人の9割以上がこのウイルスに感染しています。このウイルスは、水ぼうそうが治った後も感覚神経の根元の神経節に一生にわたり潜伏しています。

 日ごろは人体の免疫機能が働き、ウイルスが活性化しないように監視していますが、免疫が弱まるとウイルスが突然暴れ出します。免疫力が低下する要因は、過労、精神的ストレス、睡眠不足、加齢、癌や糖尿病などの慢性疾患、肥満、ステロイドや抗癌薬などの西洋薬の投与などです。

 活性化したウイルスは、増殖しながら神経に沿って皮膚まで移動します。このときに神経などを傷付けるため、痛みが生じます。数日後には赤い発疹がポツポツ現れ、帯状に広がって水疱(水ぶくれ)になります。水疱は、やがてかさぶたとなり、痛みも消えます。

 通常は3週間ほどで治りますが、高齢者など免疫が低下している場合や、症状が重かった場合は、慢性的に痛みが続く帯状疱疹後神経痛になります。ひどい場合は10年以上激痛に苦しむ例もあるようです。難聴や耳鳴り、顔面神経麻痺を伴う場合もあります。

 免疫力と病気との戦いにおいて、西洋医学は病因の排除や症状の緩和を重視します。一方、漢方は西洋医学とは逆に、免疫力の強化を重視します。

 西洋医学では、抗ウイルス薬を使います。発疹ができて3日以内に投与すれば重症化を防げる可能性が高まります。治療が遅れると悪化したり長引いたりしやすくなります。疼痛に対しては、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬で対症療法が行われます。ワクチンが、発症や重症化の予防に使われることもあります。ペインクリニックなどでは神経ブロックも行われています。

 漢方では、急性期には症状に合わせて熱邪や湿邪の除去も行いますが、主に、長期化した場合や慢性化して帯状疱疹後神経痛が生じている場合に、患者の免疫力の向上を目指し、治療に当たります。免疫力が十分でないと、病気が長引いて慢性化したり再発したりするので、最終的には免疫力の強化が重要である、と漢方では考えます。

 人体が持つ免疫力、生命力、抵抗力のことを、漢方で「正気(せいき)」といいます。正邪(正気と病邪)のバランスにおいて、正気が充実していれば疾病は発生しません。逆に病邪が強く、正気の隙を縫って病邪が体内に侵入してくると、発病します。

 従って漢方では、漢方薬で五臓六腑のバランスを調えたり、気・血・津液・精を補ったり流れをよくしたりして正気を強めていくことにより、免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

 水疱がひどいようなら、「水湿(すいしつ)」証です。水湿とは、水分の吸収や排泄、代謝が滞り、過剰な水分が体内に滞っている状態です。水湿が患部で水疱を生じています。水滞、水邪、水毒などとも呼ばれる証です。水湿を取り除く漢方薬で治療を進めます。

 精神的ストレスの影響を受けて免疫力が下がることもよくあります。見られることが多いのは、「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄:そせつ)を持つ臓腑である五臓の肝の機能(肝気)がスムーズに働いていない体質です。気血が全身に行きわたらなくなるため、免疫力が低下します。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、ストレスに対する抵抗性と共に免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治していきます。

 赤い発疹などの炎症症状が強いようなら、「肝火(かんか)」証です。肝気が鬱滞して熱邪を生み、この証になります。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

 血流の悪化により疼痛が生じている場合もあります。「血瘀(けつお)」証です。血瘀は、血の流れが鬱滞しやすい体質です。中医学に「不通則痛(ふつうそくつう)」という原則があり、「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じる、という意味です。血瘀による疼痛は、この「不通則痛」で生じる痛みです。血の流れを促進する漢方薬で血瘀を除去し、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

 帯状疱疹後神経痛では、患部に冷えが認められることがよくあります。その場合は、「寒湿痺(かんしつひ)」証が考えられます。寒湿邪が停滞して血行を阻害し、痛みを生じます。痺証は、経絡が風寒湿邪などの病邪によって塞がれて閉じ、気血の流れが妨げられ、筋肉や関節の疼痛やしびれ、運動障害が表れる証です。寒湿邪は、体内に滞留する寒邪と湿邪が結合した病邪です。寒邪・湿邪は、それぞれ自然界の寒冷・潮湿が引き起こす現象に似た症状が現れる病邪です。寒邪は気血を凝滞させやすいため、固定性の激しい疼痛が生じます。寒湿邪を除去する漢方薬を使い、帯状疱疹後神経痛を治療します。

 疲れがたまって発症、再発、悪化するようなら、「脾気虚(ひききょ)」証です。脾は五臓の1つで、消化吸収や代謝をつかさどり、気血(エネルギーや栄養)の源を生成します。この脾の機能(脾気)が弱いと、免疫力を含む生命エネルギーを意味する気(き)が十分生成されず、体内の気が不足し、免疫力が低下します。加齢、過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより脾気を消耗すると、この証になります。漢方薬で脾気を強めることにより免疫力を高め、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の治療を進めます。

 栄養状態が良くなくて疲れやすく、患部が冷えているようなら、「血虚(けっきょ)」証も考えられます。血は人体の構成成分の1つで、血液や、血液循環、血液が担う滋養作用という意味があります。この血の滋養作用が低下している状態が、血虚です。中医学に「不栄則痛(ふえいそくつう)」という原則があり、「栄えざれば、すなわち痛む」と読みます。人体にとって必要な気・血・津液が不足すると痛みが生じる、という意味です。栄養や潤いが十分供給されないと、その部分が正常に機能できず、痛みが生じます。血虚による痛みは、この「不栄則痛」で生じる痛みです。血を補う漢方薬で、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を治療します。

 強い疲労感を日々感じているときに痛みが生じるようなら、「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。「気虚」と「血虚」の2つの証が同時に生じている状態です。気虚は生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質で、血虚は人体に必要な血液や栄養を意味する「血」が不足している体質です。血虚証と同じく、「不栄則痛」により痛みが生じます。漢方薬で不足している気血を補うことにより、治療を進めます。

 全身的に免疫力が低下していると考えられるようなら、「腎陽虚(じんようきょ)」証の治療をします。腎の陽気が不足している体質です。腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。陽気は気のことです。腎陽の衰えは正気の減衰につながり、免疫力の低下を招きます。腎陽を補う漢方薬で、免疫力を高めていきます。

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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